中学時代から互いを知る「盟友」に救われた一打
今も忘れられない“痛恨のミス”から1か月あまり。再び1軍の舞台に戻ってきた背番号44を力強く迎え入れたのは、中学時代から互いを深く知る「盟友」の庄子雄大内野手だった。無言でも通じ合う信頼――。2人の若鷹が窮地に立たされていたチームを救った。
オープン戦ラストとなった3月22日の広島戦(マツダスタジアム)。9回2死でゴロを後逸したことで、自身初の開幕1軍切符は幻と消えた。それから1か月。1軍で味わった悔しさは、同じ舞台でしか晴らせないことは笹川が一番分かっていた。4月28日のオリックス戦(京セラドーム)。今季初めて1軍に昇格し、「8番・右翼」で先発した23歳は、この時を待っていた。
4回に今季初安打となる右翼線への二塁打を放ち、迎えた7回の第3打席。1点ビハインドの2死一塁で打席に立つと、初球に庄子が二盗を決めた。ここで笹川の意識に大きな変化が起きた。「(庄子が)二塁に行ってから気付きました」。試合の勝敗を分けた一打はどうやって生まれたのか――。
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この先で分かる3つのこと
劇的同点打の直前に笹川の頭をよぎった「ある欲望」
小久保監督の期待に応えるため、笹川が2軍で密かに磨いた「技術」
盟友・庄子が二塁ベースから「確信」した笹川の打席の意図
「頭の中にホームランがよぎっていましたね。一発出たら逆転だったので。でも、(庄子が)二塁に行ってから『ここでヒットを打ったら1点か』って気付きました。よく走ってくれたと思います」
信じ抜いた小久保監督の思い「予想してました」
自らの存在価値を示すには、豪快な一発で強烈な印象を残すしかない。そう考えていた笹川に冷静さを取り戻させたのは、間違いなく庄子のおかげだった。追い込まれながらも、高めの直球をコンパクトに左前へはじき返すと、庄子はヘッドスライディングで同点のホームに滑り込んだ。この一打をきっかけにホークス打線は息を吹き返し、その後6得点。23歳のコンビが勝利を呼び込んだ。
殊勲の一打も偶然生まれたわけではない。「追い込まれてからの軽打というか、そういう引き出しを2軍で見つけていたので。落ち着いてはいました」。開幕1軍を逃しても、懸命にファームでバットを振り続けた。その期間で培った技術がここ一番で発揮できたのも、笹川が過ごした日々が無駄ではなかったことの証だ。
「監督はいつも、状態が良くて上がってきた選手をすぐに使われるので。1軍に合流した時点でスタメンは予想していたというか、準備はしていたので。すんなり入れるように準備をしてきました」。指揮官とは2軍時代から長い年月をともに過ごしてきた。汚名返上のチャンスはきっと来る。信じていたからこそ、その想いに応えたかった。
庄子自身も笹川の一打を“予感”していた。「前の打席でもヒットを打っていましたし、長打よりも単打で僕を返そうというバッティングに見えたので。『何とか打ってくれ』と思っていました。やっぱりああいうところで打ってくれるというのは、単純にすごいなですよね」。二塁ベースから祈りを込めた目で見つめていた笹川の一打を、自分ごとのように喜んだ。
「食らいついていくしかないですね」。昇格即スタメンで放った劇的な一打にも、笹川が表情を緩めることはない。まだ失ったものを取り返したわけではない。心強い盟友とともに、チームの力になる。その道はまだ始まったばかりだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)