プロ初登板で狂った歯車「結構やらかしたな」
ネットに向けて山なりのボールを投げる姿に、最速153キロ右腕の面影はない。開幕1軍入りを果たしながら、現在は4軍で調整を続けている稲川竜汰投手。大きな期待を背に入団したドラフト2位ルーキーが明かしたのは、ふとした時に起きる“フラッシュバック”の存在、そして強い覚悟だった。
13日にタマスタ筑後で行われた4軍練習に参加した右腕は、しばらくボールに触れることなく体幹メニューを中心に汗を流した。練習が終盤に差し掛かったころ、ようやくグラブを持つと、ネットの前へ。牧田和久4軍投手コーチに見守られる中、リリースの感触を確かめるかのようにフワッとしたボールを投げ続けた。
今春キャンプでは最終盤にA組に合流すると、その後の実戦では自己最速153キロをマークするなどアピールを続けてきた22歳。開幕1軍入りも果たすなど、順調な船出と思われたが、プロ初登板で歯車は一気に狂った。ふとした時によみがえる“あのマウンド”の光景。「あ、俺あの時結構やらかしたな」――。
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ロ初登板の“惨劇”…以前から起きていた「予兆」
私生活のふとした瞬間に…稲川を襲う恐怖の記憶
ブルペンからマウンドへ…持ち続けた「一縷の望み」
「まだ怖さはあります。たまにふとした時に思い出しますね。練習中はあまり出てこないですけど、普通に私生活で『あ、俺あの時結構やらかしたな』みたいな。部屋に1人でいる時とか……」
4月1日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク宮城)。9回にプロ初登板を果たした右腕は2四球2暴投と制球が定まらず、1イニングを投げ切ることができずに途中降板した。右腕を襲った異変は、それよりも前に起きていた。
初登板直前にすがった“一縷の望み”「変わるかもしれない」
「(3月21日の)広島とのオープン戦から違和感はあって。今までは暴投とかほとんどないタイプだったんですけど、それが急に多くなって。疲れもあったと思うんですけど、そこから『なんでだろう』とすごく考え出してしまって。自分の体じゃないみたいな感覚はありました」
プロ初登板のマウンドに上がる直前のブルペンでも違和感は残っていた。「良くはなかったです。『あ、きょうもこんな感じか』って」。それでも“一縷の望み”は捨てなかった。「整理もできないまま名前を呼ばれて。でも『マウンドに行けば状況が変わるかもしれない』という思いはありつつ……。ただ、やっぱり難しかったですね」。
待っていたのは目を背けたくなるような“現実”だった。それでも、右腕は希望を失ってはいない。「(ファームに合流して)最初の3日、4日は落ち込んでいましたけど、あんな状態じゃ投げても勝負できないと分かったので。すぐに切り替えようとしました」。現時点ではブルペン入りも決まっていない状況だが、目線はただ前を見据えている。
「今はこれがいい経験だと思って、前向きな言葉を出すようにしています。状態が良ければしっかり投げられるというのは(オープン戦までの期間で)見せられたと思っているので。元通りになれば大丈夫かなと思っています」
同期入団かつ同学年の鈴木豪太投手がプロ初登板を果たした際には「ナイスピッチング」と連絡を贈ったという稲川。「マジで頑張ってほしいですし、自分も負けていられないですね」。もがき苦しんだ先には、必ず一回り大きくなった自分がいる――。稲川竜汰のプロ野球人生は始まったばかりだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)