谷川原の起用法…首脳陣が交わしていた“会話”
「良い形で打てているので、しっかりアピールしてラッキーボーイになれたら」。シーズン最終盤に外野手としてスタメン起用され、6試合連続安打をマーク。クライマックスシリーズ出場に向けた猛アピールを見せたのが谷川原健太捕手だった。
今シーズン、プロ10年目にして初の開幕スタメンマスクを任されたが、わずか4試合の出場で4月7日に2軍降格となった。その間に海野隆司捕手が主戦捕手となり、6月に1軍へ復帰してからもスタメンマスクは11試合にとどまった。
しかしシーズン最終盤、万全ではない近藤健介外野手や周東佑京内野手に代わって外野で起用されると、持ち前の打棒を発揮。打率.264(72打数19安打)で、うち3本塁打、二塁打7本と安打の半分以上が長打とパンチ力を存分に見せつけた。
前半戦は1軍出場がほとんどなかった28歳の外野起用。首脳陣の言葉からうかがえたのは、高い評価と決断の重さ。実は以前から上がっていた声があった。「使いたいなっていうのはありました」。
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続きの内容は
・谷川原を「使いたい」と願った“真意”とは
・村上コーチが明かす小久保監督の決断
・谷川原が語る、外野転向で生まれた“相乗効果”
「もともと外野を守れる選手ですし、(1軍の試合で)使いたいなっていうのはありました。僕はもうずっと(打撃を)買っているので。だから今回も使いましたし、外野で故障者が出た時も使いたいっていうことは言っていました」
そう語ったのは村上隆行打撃コーチだった。シーズン序盤は近藤、周東、柳田悠岐外野手といった外野の主軸が相次いで離脱。4月末には内野手の野村勇がレフトの練習を行うなど、チームでは緊急体制が敷かれた。実はこの時点で、谷川原の外野起用も“案”として挙げていたという。
「(小久保裕紀監督に)いろいろ提案はさせてもらいました。その時は『一度キャッチャーで勝負すると言っているものを、すぐ外野でというのはない』と。ただ今回も非常事態でしたから。その話を監督が本人にして、今の形になっています」
9月2日、オリックス戦(みずほPayPayドーム)の試合前練習中に小久保監督が外野での出場を打診した。優勝争いの最終盤で、近藤が腰痛のためスタメンを外れていた。「勝負をかけた時にオプション」と指揮官も語った“とっておきの一手”だった。
約1か月で3キロ減、見える“相乗効果”
捕手1本で勝負をしていた谷川原自身も、この提案を前向きに捉えていた。「ベンチにいる時間も長かったので。チームを代表して(スタメンで)出ることはやりがいもありますし、やっぱり試合に出てなんぼだと思うので」と出場機会への渇望を力に変えた。
約2年ぶりとなった実戦での外野守備。その動きを大西崇之1軍外野守備走塁兼作戦コーチも称賛した。「普通に守れてるやん、と。本当に上手いぐらい。彼(谷川原)が外野で試合に出て、バッティングを生かせるというのはチームにとってもプラスやと思うしね」。
捕手とは動きも異なり、走る量も多い外野のポジション。体重は1か月で約3キロも落ちた。その変化が、打撃にも“相乗効果”として良い影響をもたらしている。「体にキレが出て、いい感じに打てている」。本人も手応えを感じていた。
村上コーチは短期決戦を前に、「絶対に必要になる存在」と評価する。シーズン序盤の悔しさを乗り越えた男が、日本一へ導く“ラッキーボーイ”となるかもしれない――。
(森大樹 / Daiki Mori)