抜け出した不振も…試合前には“半信半疑” 柳町達が戦う新たな不安「去年とは全く違う」

左翼への二塁打を放った柳町達【写真:古川剛伊】
左翼への二塁打を放った柳町達【写真:古川剛伊】

30打席ぶり安打も…昨季の不調との大きな違い

 長いトンネルを抜け、確かな光が差し込んだ。4日の西武戦(みずほPayPayドーム)で30打席ぶりの安打を記録した柳町達外野手が、5日の同戦でも、西武・今井達也投手から適時二塁打を含む11試合ぶりのマルチ安打をマークした。

「本当に長かったですし、毎日すごく疲れを感じていました……」。交流戦MVPに輝いた直後、リーグ戦が再開するとまさかの6試合連続無安打。苦しかった日々をそう振り返った。

 昨季も前半戦は好調だったが、後半戦、特に8月以降に一気に調子を落とした。それでも「去年とは、全く違うと思います」。5日の試合後に語ったのは、初めて経験した“レギュラー”としての苦しみ。そして、試合前に胸をよぎった一種の“不安”だった--。

「やっぱり、これまでは試合に出たり出なかったりというのがすごく多かったので。今年はずっと出続けた中での(不振)だったので、違う意味があるんじゃないですかね」

 4月23日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)以来、56試合連続でスタメン出場を続けている。開幕は2軍スタートだったものの、腐らずに準備を続け、近藤健介外野手ら主力が離脱した穴を埋める活躍を見せてチャンスをものにした。

 昨年は不調に陥るとスタメンを外れ、自分の打撃を取り戻す機会さえないまま苦しんだ。だが今年は、小久保裕紀監督から「外せない選手からチームをけん引する選手に変わりつつある。すごい成長を感じます」と評されるなど、確かな信頼を勝ち取った。

「調子は悪かったんですけど、やることは変えずにできていた。いい時は続きやすいと思うんですけど、悪い時でも同じようなルーティンで過ごせたっていうのはすごい良かったです」。結果が出ない中でも、毎日の取り組み方を崩さずに貫いた。それが復調へのきっかけとなった。

ヒーローインタビューを応じる柳町達【写真:古川剛伊】
ヒーローインタビューを応じる柳町達【写真:古川剛伊】

試合前に襲われた“不安”

 交流戦で打ちまくってMVPを獲得した柳町でも、久々の安打を経て迎えた5日の試合前練習では、実は不安に襲われていた。

「まだ『本当に大丈夫なんだろうか』っていう半信半疑な感情、不安もありながら練習していました」

 それでもこの日は、そんな不安を振り払うかのような活躍を見せた。2回は6球目のスライダーを中前にはじき返した。さらに5回一死二塁の第3打席では、9球粘った末に直球を捉え、左翼フェンス直撃の適時二塁打となった。逆方向へ強く打ち返す、価値ある一打だった。

「すごくタイミングが良い打席だったと思います。1打席目からいいアプローチができて、追い込まれても対応できました。あれだけ速い球にも負けずにタイミングを合わせられたので、少しの自信にはつながったかなと思います」。

 小久保監督も「(トンネルは)抜けたんじゃないですか。1打席目も彼らしいヒットでしたし、タイムリーも外の真っすぐに負けず、力強い打球を打ち返していました。そんなにもう心配はしていないです」と復調に太鼓判を押した。

 不振を越えて、ようやく感じた手応え。ここにきて、柳町は打率.315で再び首位打者に浮上した。それでも「またどうなるか分からない。だからまた、その不安との戦いかなと思います」と、気を緩めることはない。28歳は未知の領域でも自分らしく戦う。

(森大樹 / Daiki Mori)