「今度は自分が『おめでとう』って言えるように」
2人で語り合った“夢”があったから、がむしゃらに走り続けた。「その日」が実現するまで、歩みは止めない。「今度は自分が『おめでとう』って言えるように。頑張り続けますよ」。大切な仲間への思いを語ったのは、川口冬弥投手だ。
大学卒業後に社会人、そして独立リーグを経てホークスに育成入団した右腕。2軍での圧倒的なパフォーマンスが認められ、6月20日に支配下登録を勝ち取った。“エリート街道”からはほど遠い道のりを歩んできた川口にとって、特別な感情を抱くチームメートがいる。
「野球をやってきたカテゴリーも似ていますし、『一緒に頑張ろうよ』っていうのは変わらないので」。右腕が温かい言葉をかける相手は、育成同期の大友宗捕手だ。川口と同学年で、大学から社会人、独立リーグへと進んだ経歴も同じ25歳。ともに一足早く入寮し、今年1月に立てた誓い――。運命的な出会いを果たした2人のストーリーを明かした。
相棒から届かなかった祝福メール「気まずいな」
「去年の12月に2人だけで寮に入って。(今春の)キャンプの休日とかも、普通はプロ野球選手ってお金を使うじゃないですか。僕と大友は独立出身ならではというか、一緒に海へ散歩に出かけたりとか。お金を使わずに楽しんでましたね」
支配下登録を掴んだ6月20日、川口のスマートフォンには大量のお祝いメッセージが送られてきた。そんな中で、盟友の名前が見つからなかった。「大友からの連絡がなくて、一瞬『気まずいな』と思っちゃったですけど…」。甲子園での阪神3連戦を終え、筑後の寮に戻ると、大友から連絡が届いた。
「直接会って、ハグして。『おめでとう』と言ってもらいました。『いっぱい連絡が来ていただろうから、迷惑だと思ったから送らんかっただけやで』って聞いて。もうなんか安心して……。ちょっと変な心配しちゃったなって」
春季キャンプ前の1月に立てた誓いを現実に
春季キャンプが始まる前の1月には、2人だけで誓い合った。「いつか、ここ(みずほPayPayドーム)で一緒にバッテリーを組もう」――。その約束があったから、全速力で走り続けることができた。
思いは大友も変わらない。「(川口の支配下は)嬉しかったですね。一緒に頑張ってきた仲間だし、境遇も似ているので」。現在、ホークスの支配枠は残り「2」で、7月末の期限も刻々と迫っている。「もちろん、焦りがないことはないんですけど。でも、自分がやることは変わらないというか。本当に後悔がないようにやろうっていう気持ちが強いです」。
2人で語った夢を、大友ももちろん忘れていない。「2人で一緒に1軍でやれるのがベストだと思うので。頑張ります」。川口も「それはもう、変わらず目標としてあるので」と言い切った。これまでも育成から支配下に上がった選手が幾重ものストーリを刻んできたホークス。苦労人2人が新たな物語を紡いでほしい。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)