1軍復帰後は6戦4発…「本当にうれしい」
主砲が復活を告げる2本のアーチを放った試合後、“相棒”は自分のことのように声を弾ませた。「本当にうれしかったですね」――。1軍に復帰後、6試合で4本塁打と持ち前の打棒をいかんなく発揮している山川穂高内野手。復調は1人の力では成しえなかった。
3日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)、山川のバットが猛威を振るった。2回に先制の12号ソロを左翼席に突き刺すと、6回にも左翼テラス席に弾丸ライナーを叩き込んだ。今季2度目となる1試合2本塁打をマーク。6月27日に1軍復帰してから、6戦4発の大暴れ。極度の不振に悩まされていたのが不思議なほどの躍動ぶりだった。
現役屈指のアーチストが、もがき苦しんでいた。一向に状態が上がらず、6月16日に出場選手登録を抹消された背番号5が選んだのは、筑後のファーム施設での1000球を超える打ちこみだった。1週間ほどの期間、パートナーを務めたのは“ホークスの山川”を最も知る男――。明かしてくれたのは、知られざる主砲の苦悩だった。
猛暑の筑後で3時間の打ち込みも「気が済むまで」
「西武時代がどうだったかは分からないですけど、去年の状態が悪かった時期よりも、さらに苦しんでいるようには見えました。沈んだり、いらいらしたりする感じではなかったですけど、自分に対する不満みたいなものは、僕にも少し伝わってきましたね」
そう口にしたのは、筑後での“ミニキャンプ”に同行した岡本健打撃投手だ。日によっては、休憩をはさみながら3時間近く打ちこむこともあった山川を相手に、黙々と右腕を振り続けた。
「普段、1軍でバッティングピッチャーをするときは1日120球くらいなんですけど、筑後では体感的に1日200球くらい投げたと思います。多い時は250球くらい。筑後で屋外フリーをやったのが5日間だったので、合計で1000球は超えているかなと思います」
午前中はファームの選手やリハビリ組が練習を行うため、山川との“対戦”は最も気温が上がる昼過ぎから行われた。岡本さんにとっても重労働だったが、「打つだけ打ってくれればいいと思っていたし、全然投げられるので。気が済むまで打ってくださいって感じでした」と笑いながら振り返る。
ホークス移籍直後に“指名”「打たせてください」
山川が筑後での日々で意識していたのは、背中が丸くなってしまうフォームの修正、そしてボールをつぶすように上からたたくスイング軌道の改善だった。「これだけ実績のある選手でも、『こっちの方がいいかな』と僕にアドバイスを求めてくる。やっぱり一流選手は振り込むことで(技術を)身につけるんだなと感じました」。岡本さんにとっても主砲と過ごした時間は濃密だった。
「打者をどうすれば抑えられるか」を考えていた現役時代と違い、打撃投手は「打者にどうやって打ってもらうか」が大事になる。だからこそ、受け持つ選手の活躍が一番の喜びになる。「やっぱり試合で打てないと、自分が責任を感じる部分はありますよね」。山川の復活に柔らかな笑みを浮かべたのには理由があった。
普段は「アグーさん」「健」と呼び合う2人。付き合いは山川がホークスに移籍した直後から始まった。「ボールがすごく打ちやすくて、去年の春のキャンプでもばんばんホームランが出たので。コーチに『岡本を打たせてください』とお願いしました」と山川は振り返る。
1年半にわたる“相棒”が喜んでいたことを聞いた山川は「僕もうれしいですね」と応じた。「自分が結果を出すのが恩返しだと思っているので。ホームラン王を取って、チームが優勝するっていうのが1番ですね」。1学年下の岡本さんへの感謝は、自らのバットで伝える。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)