無死満塁でなぜワンバンフォーク連投? 流れ変えた嶺井博希の“二面性”「1も3も同じ」

ハーフスイングをアピールする嶺井博希【写真:古川剛伊】
ハーフスイングをアピールする嶺井博希【写真:古川剛伊】

8回無死満塁を無失点→9回逆転サヨナラ勝ち

 0でなければ1も3も同じ――。絶体絶命の場面で嶺井博希捕手は腹をくくった。塁上がすべて埋まっている状況で要求したのは、3球連続のワンバウンドフォーク。試合の大きな分岐点となったシーンで考えていたこととは。

 劇的な逆転サヨナラ勝ちを飾った2日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。ハイライトは1点ビハインドで迎えた8回だった。この回からマウンドに上がった藤井皓哉投手が死球、右前打、四球で無死満塁のピンチを背負った。相手先発の加藤貴の前に、打線はゼロ行進。これ以上の失点は致命傷になりかねない場面だった。

 結果的には藤井が3者連続三振を奪う意地の投球で相手に得点を与えず、9回の逆転劇へとつながった。のるかそるかの場面、グラウンドでは何が起きていたのか――。バッテリーの言葉から浮かび上がってきたのは厚い信頼だった。

藤井にマウンドでかけた言葉…「普通にちょこちょこと」

「腹くくらなくちゃいけない場面と、そうじゃない場面があるので。あの展開ではゼロしかない。点を取られるなら1点も3点も一緒のケースだったので。藤井を信じてサインを出すしかないなという感じでした。本当にいいところで投げてくれたと思います」

 五十幡にフルカウントから四球を与えて無死満塁となり、マウンドには輪ができた。強い覚悟を決めていた嶺井だったが、藤井に掛けた言葉は至って冷静だった。「『腹くくるぞ』とか、そんなことは言ってないですね。普通に戦術的なことをちょこちょこっと言った感じです」。

 マウンド上の右腕を落ち着かせたうえで、サインを伝える指先には決意がこもっていた。矢沢に対して、3球連続でワンバウンドのフォークを要求。ワイルドピッチも絶対に許されない場面で、がっちりと体でボールを止めてみせた。「そこはもう藤井のためになんとかと。それしか考えていなかったですね」。リスクを恐れないリードで1ボール2ストライクと追い込み、4球目の真っすぐで空振り三振を奪った。

 2死後の郡司にも7球全てフォークを選択。ここでもワンバウンドのボールを懸命にブロッキングし、最後は空振り三振に仕留めた。ベンチに戻る際にはミットの中のボールを勢いよく放りだす仕草を見せるなど、気持ちを全面に露わにした。

8回の大ピンチをしのいだ藤井皓哉【写真:古川剛伊】
8回の大ピンチをしのいだ藤井皓哉【写真:古川剛伊】

軽い“くぎ刺し”に見える普段の関係性

「藤井の状態が悪いとかでは全然なかったので。あの立場で投げているピッチャーですし、(無死満塁になっても)悲観することはなかったです。彼のボールを信じるだけでした。経験もあるし、いけるだろうと」

 強気のリードに応えた藤井が口にしたのも、先輩キャッチャーへの信頼感だった。「僕もあの場面では(プレートを)外したりして、とにかく投げ急がないようにと考えていましたね。自分たちがやりたいことをしっかりできるよう、準備するのが大事だと思うので。そういうところも含めて、お互いにいい時間の使い方ができたかなと思います」。

「とにかく藤井に感謝です。まあピンチを作ったのも藤井でしたけどね」。嶺井が最後にチクリとくぎを刺したのも、普段の関係があるからこそ。バッテリーの絆でつかみ取ったサヨナラ勝ちでもあった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)