ホークスが当たりくじを掴んだ衝撃「うわーっ」

人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。大野稼頭央投手の第2回は、1学年下のドラフト1位左腕への“リアルな思い”がテーマです。ドラフト会議でホークスが交渉権を獲得した瞬間の「マジか……」。接して分かった後輩の凄みと、「もったいない」との思い――。前田悠伍投手との関係性を包み隠さず語ってもらいました。
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2023年のドラフト会議、ホークスが3球団競合の末に“当たりくじ”を掴んだ際の衝撃を今でも覚えている。「最初は『うわーっ』っていう感じでしたね」。前年にドラフト4位で指名され、入団した大野にとっては自身と同じ高卒左腕。実績や知名度は前田悠の方が圧倒的に上だったとはいえ、意識しないわけがなかった。
昨季はともに2軍でプレーする時期もあり、距離は一気に縮まった。「別に先輩後輩っていう関係性ではないですね。むしろ同級生かっていう感じで向こうがくるので。僕もあまり上下関係とか気にしないですし、普通って感じです」。大野は笑みを浮かべつつも、“本業”の話になると表情を引き締めた。
先発として感じた技術「悠伍は簡単にやってのける」
「持っているものは向こうが断然上なので」。昨季、ルーキーながら2軍で12試合に登板し、4勝1敗1セーブ、防御率1.94をマークした前田悠。同じ左腕として、大野が感じたのは完成度の高さだった。
「技術はやっぱりすごいです。自分の調子うんぬんじゃなくて、どんな調子でも試合を作ることができるのは技術だなと思います。僕も先発をやって、調子が悪かったらどうしても試合を作るのは難しいので。悠伍はそれを簡単にやってのける。そこはすごいなとは思います」
1学年下の後輩に対して、素直に力を認めるのはそう簡単なことではない。それでも大野はこう言った。「色々と野球の話をするようになって、学ぶことも多いですし。逆に自分から話を聞くこともしょっちゅうあるので。ともに成長していこうというか、切磋琢磨して上(1軍)でも一緒にやれたらなっていうのはありますね」。
大野らしい考えが生んだ“絶妙な距離感”
ライバルとの“絶妙な距離感”は、大野らしい考え方が根底にある。「もし他のチームでプレーしていたら、多分負けたくないという気持ちが強くなるとは思うんですけど。同じチームでバチバチの関係になって、しゃべらなくなる方が『もったいない』と思うので。聞けることはどんどん聞いて、お互いに高め合っていけたらなって思ってます」。
穏やかな表情を浮かべる左腕だが、もちろん先輩としてのプライドもある。昨年10月にプロ初登板を果たした前田悠に先を越されたものの、今季は自身もプロ初昇格を果たし、6月1日の楽天戦でデビュー。ここまで2試合に登板して計3イニングを無失点と、成長ぶりをまざまざと見せつけた。
「悠伍の上だからといって、負けるわけにはいかない。持ってるものは向こうが上だけど、負けないようにっていうのは常に思っています」
相手を認め、時にいい部分を吸収する柔軟さを持ち合わせつつ、胸の奥底には確かな闘志を秘める大野。前田悠とともに1軍で躍動する日が訪れた時、ホークスの投手陣は新たな時代へと進むだろう。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)