決勝打から2日後の悪夢「僕のせいで…」 プロ人生のどん底、石塚綜一郎に寄り添った人物は

石塚綜一郎【写真:古川剛伊】
石塚綜一郎【写真:古川剛伊】

石塚が22日の阪神戦、左翼の守備で失策

「僕のせいで負けるかもしれない」。ヒーローとなったわずか2日後、若鷹が悪夢の底にいた。色濃く突きつけられた自らの課題。石塚綜一郎捕手にとって、22日の阪神戦(甲子園)は、プロ人生で忘れられない一戦となった。

 1軍再昇格を果たしたのが17日。20日の阪神戦、延長10回に代打で決勝打を放つと、22日にはスタメンを任された。「6番・左翼」で出場したが、思わぬ形で野球の怖さを知ることになる。

 2点リードの4回2死一塁、佐藤輝明内野手の打球は左翼線へ。石塚が処理しようとしたが、不規則なバウンドにタイミングを合わせられず後逸。一走が生還する痛恨の失策となった。持ち味の打撃面でも、6回に併殺打に倒れるなど3打数無安打で途中交代。何もアピールできないまま、ベンチへ退くことになった。

「後悔しかない試合でした」。自らのプレーに対して肩を落とす24歳に、そっと声をかけた人物がいたーー。

「切り替えていけよ。同じミスは2度とないようにしよう。でも、お前のバッティングで勝った試合もあるんだから」。声の主は、大西崇之1軍外野守備走塁兼作戦コーチだった。捕手登録ながらも、長打力に期待して左翼でスタメン起用した。首脳陣も責任を背負うように、背中を押してくれた。

「そんなに専門で外野をやってるわけではないからね。ミスは、ある程度起こり得るというのは想定の範囲内。なぜそうなったのかという反省は、本人と俺がしっかりすればいい。ただ、失敗したことで臆病にだけはなってほしくない。失敗した時って、『やっちまった』って思うやん。それを取り戻してやるのも俺たちの仕事だから」

 その言葉に救われたと石塚は振り返る。「正直、この試合はプロに入って一番(気持ち的に)きました。でも、6年間やってきた中で改めて、ただ落ち込むだけじゃダメだと思いました。すぐに気持ちを切り替えました」。ベンチの最前列では、ゲームセットまで必死に声を出す姿があった。

チャンスをつかむために「同じミスをしない」

 外野が天然芝の甲子園球場。逸らした打球は今まで経験したことのない跳ね方だった。「ただ、うまい人なら捕れる打球だったと思いますし、それも言い訳にはできません」と受け止める。試合前の守備練習でも風向きやバウンドも確認していたが、対応しきれなかった。「2度と同じミスをしないようにやっていきます」と反省を口にしつつ前を向いた。

 現在チームでは、近藤健介外野手が左かかとの痛みでベンチスタートが続いており、外野の一角は日替わりで起用されている。石塚にとってもチャンスではあるが、スタメン出場を増やすには左翼守備の向上が不可欠だ。「去年、2軍で外野を始めてから、ずっと特守も続けてきました。すぐにうまくはなりませんが、日々取り組んでいます」。本人がそう語れば、大西コーチも「人一倍ボールを追いかけている姿は見ています」と話す。

首脳陣から与えられた課題…石塚に見える変化

「左キラーになってこい」ーー。小久保裕紀監督から再調整を告げられて、登録抹消となったのは4日の出来事だ。もちろん、石塚自身も理解しており「そこに悔しさはなく、また自分を見つめ直すチャンスだと思ってやっていました。これ以上、もっと打ってやろうと。僕の場合は打つしかないので」。守備面への課題を踏まえ、長打力という持ち味は絶対に見失わない。野球の怖さも喜びも知って、プロ野球選手として何倍も成長しようとしている。

 代打待機が続くが、自身の役割について「僕は与えられた場所でしっかり結果を出すだけです」と、迷いのない口調で語った。後悔を力に変えて、もう1度チームを勝利へ導く。

(森大樹 / Daiki Mori)