川口の支配下登録で枠は残り「2」に
残り1か月に迫り、着々と狭まる枠――。自分との戦いとは言えど、悔しさや焦りがないわけではない。20日に川口冬弥投手の支配下登録が発表され、育成からの昇格は山本恵大外野手に続き、今季2人目となった。これで支配下枠は「68」。50人を超える育成選手のうち、今年中に2桁の背番号を手にすることができるのは最大で2人までとなった。
育成選手の中では、宮崎颯投手と宮里優吾投手の活躍が際立っている。宮崎は2軍で16試合に登板して防御率1.33。宮里は2軍で12試合に登板し、自責点1(失点2)で防御率0.69。支配下登録されても驚きはない成績を残しているが、吉報はまだ届いていない。
2軍で好成績を残す2人はライバルの支配下登録をどう受け止めたのか。「その日は悔しくて……」。明かしたリアルな心境と思い。そして、小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)が提示した2桁番号への“最低条件”とは――。
「一番は悔しかったです。その日、悔しくて40分くらい走りに行きました。家にじっとしている方が良くないなと思ったので、『汗をかいて1回リフレッシュして忘れよう』と走って、必死に切り替えました」
宮崎はそう胸の内を明かした。東農大から2022年育成ドラフト8位で入団した左腕は、新人合同自主トレ中にトミー・ジョン手術を決断。1年目の2023年は登板なく、昨季終盤に実戦復帰を果たした。支配下枠が「3」に減った際には「枠が減ろうがなんだろうが、自分のやることをしっかりしてアピールするっていうのは変わらない」と語っていたが、今回ばかりは悔しい思いを隠すことはできなかった。
それでも、「ネガティブになったら良くない方向に行くというのは自分でわかっていたので」と、すでに気持ちを切り替えることはできていた。小笠原コーチからかけられた言葉で左腕は気持ちを整理することができた。
「『人じゃなくて自分なんだよ。まだゼロになったわけじゃない。まだ2枠もある。可能性はゼロじゃないんだから』と言われました。まさにその通りだなと思った」と冷静に受け止めた。「あと1か月、支配下へ上がれるように、調子も上げて、やるべきことをやっていきます」と力を込めた。
意外な形で知ったライバルの支配下「お前まだ電話来てないの?」
一方、2023年育成ドラフト2位で入団した宮里は「別に何も。僕はやるだけなので」とはっきりとした思いを語る。最速155キロの直球と落差のあるフォークを武器に2軍での自責点はわずか「1」。好成績を残し続けているが、自らを客観的に見ている。
「投げているボールにはまだまだ課題があると思っています。周りの先輩からも『成績がいいんだから、もっと自信を持って』とは言われるんですけど、そこは継続しつつ、1軍で通用する球を投げないといけないです」
川口の支配下登録は意外な形で知ったという。球団発表の前夜、同期の岩井俊介投手から送られてきたLINEがきっかけだった。「冬弥が支配下になると聞いて、『お前まだ電話来てないの?』みたいに言われて。『いや、来てないけど』と」。
それでも、「悔しいとかじゃない。自分は自分なので。まだ期限が終わったわけじゃないですし、何も変わりません」と平常心を貫く。「まず目の前のイニングをゼロに抑えていく。期限まで、結果が求められていると思うので。今年ダメならクビという覚悟でやっています」。その言葉には強い決意がにじむ。
コーチが明かす支配下への“最低条件”
好結果を残す2人を小笠原コーチはどう見ているのか。「今の投球は、最低限ですね。『数字じゃないところ』が2人とも課題。内容が良くない日も多い」と厳しい言葉を口にした。「そこを完璧にしないと。結局、打ち損じや結果オーライといった運だけで野球をやっていても、大事なのは1軍で活躍することなので」。結果以上に、1軍で通用する圧倒的な内容を求めている。
そして、川口の姿を称賛した。「ここまで2軍で自分の課題に取り組み、それを一番いいところ、あの大観衆の雰囲気の中でパッと出せるというのはすごいと思います。他の選手もあの姿を励みにして、『自分もできるんだ』という気持ちをグラウンドで出してほしい。そういう選手が増えてほしいですね」。
もちろん、2軍で結果を残すことは大前提だ。しかし、求められるのは1軍で通用する「真価」。7月末の期限に向け、残された枠を巡る若鷹たちのサバイバルは、ここからさらに熱を帯びていく。
(森大樹 / Daiki Mori)