今宮健太は「初めて尊敬した人」 キャンプA組→苦悩の日々…育成23歳を救った言葉

桑原秀侍【写真:竹村岳】
桑原秀侍【写真:竹村岳】

育成5年目の桑原秀侍が初の2軍参加で躍動

「苦しい時間でした」――。3、4軍で過ごす日々が続いたが、今季初の2軍参加で躍動した。育成5年目の桑原秀侍内野手が21、22日のくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)で計9打数5安打の打率.556、二塁打4本と打ちまくった。背番号124が自らの存在を十分に印象付けた。

 22日の試合には「1番・中堅」で先発出場。初回の第1打席で内角高めの直球を捉えて左翼フェンス直撃の二塁打を放つと、続く第2、第4打席でも二塁打を放ち、1試合3本の二塁打をマークした。「ボールがしっかり見えている。そのボールの軌道にバットを乗せられているので、結果につながっていると思います」。確かな手応えを口にした。

 春季キャンプではA組にも抜擢された。一方でシーズンが始まると3、4軍でのプレーが続いていた。「結果を出そうと力んで、完全にフォームを崩してしまいました」。焦る気持ちがさらなる空回りを生み、もがく時間だけが過ぎていった。苦悩の日々を支えたのは、自主トレを共にした師匠・今宮健太内野手の言葉だった。「すごく自分の中では力になりました」と振り返った一言とは--。

「絶対誰かが見てくれているから。じっくり、自分のやれることをやれ」

 リハビリのために筑後を訪れていた今宮が、たびたび声をかけてくれた。師匠の言葉が23歳を奮い立たせた。「普段から『頑張ってるか』と気にかけてもらいました。腐らずにできたのは、その存在が大きかったと思います」と感謝する。

 今宮との接点は、2023年オフの自主トレから始まった。きっかけは、金子圭輔3軍内野守備走塁コーチの「今宮と一緒にやってみたらどう?」という提案だった。本人に直接連絡すると、快く受け入れてくれたという。

「本当に、初めて『尊敬できる』と思える人でした。正直、それまでは誰かに強く興味を持つことがなかったんです。でも今宮さんに出会って、生活面でも野球面でもすごく尊敬できると感じました。そんな存在に出会えたのは、自分の野球人生にとって大きなことでした」

 自主トレでは「下半身をもっと使え」というアドバイスを受け、重点的に取り組んだ。そして何よりも、手本となるその姿に感銘を受けた。

A組を経験したことで訪れた変化

 今宮のもとで打撃強化に励み、春季キャンプのA組で体感した1軍レベルの投手たちとの対戦。そこで得た刺激が、桑原の成長につながった。「レベルが上がるほど、ボールの質も違う。それに合わせたフォームをキャンプから作ってきました。1度は崩れたんですけど、今はそれを継続した結果、ようやくハマってきています。振り返ってみても、自分のためになったと感じます」。

 松山秀明2軍監督も「元々は少し雑なバッティングをするタイプでしたけど、今は本当にコンパクトにバットを振れています」と成長を認める。「枠の問題でみんなをうまく使えないことも多いんですけど、彼はそのチャンスを本当に生かして結果を出している。これから先にもつながっていけばいいと思います」と評価した。

 育成として迎えた5年目のシーズン。焦りがないと言えば嘘になる。しかし、今は「やれることをやる」というスタンスにたどり着いた。「多少の焦りはありますが、自分のやれることをやれば、おのずと結果はついてくる。支配下を目指して頑張ります」。

 限られたチャンスの中でもがきながらも、自分のリズムを見つけ、今はその一歩を力強く踏み出している。目指す2桁の背番号、そして師匠と共に1軍のグラウンドへ。交わした言葉を胸に、桑原秀侍は前を向く。

(森大樹 / Daiki Mori)