ベンチから身を乗り出し応援…試合中に抱いた思いは
屈辱を胸に刻み込むかのように、左腕は微動だにせずグラウンドを見続けていた。“商売道具”の肩や肘をケアすることさえせず、前田純投手は試合終了までベンチから身を乗り出してチームメートに声援を送り続けた。
11日の巨人戦(みずほPayPayドーム)、ここまで安定感抜群の投球を見せてきた左腕が崩れた。初回に3四死球を与えるなど、いきなり4失点。2回も死球絡みでピンチを招くと、岸田に2点適時打を浴びた時点でベンチはたまらず投手交代を告げた。1回2/3を5安打4四死球、6失点でノックアウト。序盤で試合を「壊す」投球は、2軍時代を含めても初めてのことだった。
先発投手は降板後、アイシングを施すなど体をケアするのが一般的だ。そのそぶりさえ見せず、降板後から試合終了まで声を出し続けた前田純。試合中に抱いていた思いを率直に聞いた。
「2回も持たずに降板して、チームに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。自分にできることは、とにかく応援すること。その選択肢しかなかったです」
初めて感じた「これが1軍だな」…見つけた答え
左腕の口から出てきたのは、シンプルな悔しさだった。11日の試合前まで防御率1.87と安定感あるピッチングを続けていたが、過去は関係なかった。「球数もそんなに投げていなかったので(59球)、アイシングをしなかっただけです」。淡々とした口ぶりが、より前田純の感情を照らし出しているかのようだった。
プロとして落ち込んでばかりはいられない。育成10位入団から先発ローテ投手にまで這いあがってきた左腕は折れない。「プロに入ってから大量失点はなかったので『これが1軍だな』と思いました。本当にいい経験になりましたね。何でこうなってしまったのか、考えることが多くて逆に色々と学べた試合でした」。
自身の中で1つの答えは見つけた。「11日の登板前は体を追い込みつつ、軽く休んでという感覚で入ったんですけど、少し体が重かった。今回(18日の広島戦)に向けては、追い込みながらケアを入念にやってきました」。登板前の疲労を考え、自身のトレーニング量を調整してきた。
「気持ちを切り替えるとか、まだそんな段階にもきていない投手だと思うので。開き直って一戦一戦、自分の全力投球を出せれば必ず結果は出ると信じてやるだけかなと」。そう自身を見つめ直したうえで、力強く言い切った。「次が勝負です」。これまでも困難な道を歩んできた25歳の左腕は、胸に刻んだ悔しさをきっと晴らしてくれる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)