過去には「優勝チームに名捕手あり」の名言も
捕手3人による「がっぷり四つ」の争いを抜け出すために必要なことは――。開幕直後の“借金地獄”を完済し、交流戦も12日時点で5勝3敗1分けの首位と勢いを増しつつあるホークス。現在首位と4ゲーム差のリーグ4位から上位を目指していくうえで、避けては通れない議論は「捕手併用」についてだ。
小久保裕紀監督は6日のヤクルト戦前にこのように話していた。「投手との相性というよりは、決め手がない。今のチーム状態ではね。(捕手併用は)相手からすれば嫌だったけど、チームを預かる身としては理想ではないですけど」。
現在は、1週間の6試合を先発投手に合わせて、海野隆司捕手、嶺井博希捕手、渡邉陸捕手が2試合ずつ先発を分け合っている状況だ。「2025年6月の戦いはこれがベストなのかなと思います」と指揮官が口にするように、現状での最善策と言える。
かつて野村克也氏は「優勝チームに名捕手あり」との言葉を残した。一方で、最近の球界では捕手併用がスタンダードになってきているのも事実だ。正捕手は必要なのか? また、現在のホークスでそうなるために必要なことは何か? 首脳陣の考えを聞いた。
明らかに変わった起用傾向…正捕手は必要か?
「小久保監督が春先から言われているスローイングとブロッキング。この2つがまずは一番の条件であることは間違いないです。そこに(マスクをかぶった際の)チームの勝敗やリード、バッティングといった色々な要素がプラスされるんじゃないかなと思います」
そう分析するのは高谷裕亮バッテリーコーチだ。現状、捕手3人の評価が均衡しているのは数字でもわかる。3、4月の26試合で先発した捕手の内訳は海野18試合、嶺井2試合、渡邉3試合、谷川原健太捕手が3試合。明確に海野が「正捕手」として起用されていた。一方で5月に入ると海野8試合、嶺井12試合、渡邉3試合と、ベテラン捕手の起用が大幅に増加。6月は12日現在で海野3試合、嶺井3試合、渡邉4試合と完全に均等となっている。
現在は有原航平投手、リバン・モイネロ投手の「左右のエース」が登板する際は海野がマスクをかぶり、上沢直之投手と大関友久投手は嶺井。前田純投手と松本晴投手が渡邉と“分業制”のような状況だ。
指揮官が「相手からすれば嫌」と話したように、捕手併用のメリットは当然ある。絶対的な正捕手は不要なのか――? その問いに対する高谷コーチの答えは、はっきりと「ノー」だった。
シビアな判断基準「合格点とまではいかない」
「できることなら、やっぱりドシっとした1人の“柱”がいることが1番いいです。その1人が143試合全てに出るとかではなくて。柱がいて、それを支える捕手がいるっていうのが理想だとは思います。やっぱり1人が中心でマスクを被って、1カードをトータルで考えながらやれるのは、大きなメリットになることは間違いないです」
高谷コーチ自身も現役時代は「抑え捕手」の経験もある。現役晩年には甲斐拓也捕手が正捕手としてプレーしていた。強い捕手を作ることは、コーチとしての重要任務となる。それでは、現在の捕手3人に抜け出す力はあるのか?
「ブロッキングに関しては3人ともまあまあかなと思いますけど、スローイングに関してはまだばらつきがある。合格点とまではいかないかな……というのが正直なところです。これは僕の責任でもあるので。なんとかそこは上げていくしかないですね」
現在、出場機会を分け合っている形だからこそ、誰もが抜け出すチャンスがあるともいえる。「週に2回の出場で、どういうものを出していけるか。チームの勝ち負けもそうですけど、立ち振る舞いも含めて判断基準になると思います」。首脳陣は冷静に目を光らせている。
捕手併用のメリットを生かしながら白星を積み重ねつつ、正捕手の台頭を待っているホークス。理想と現実のはざまで、誰が飛び出してくるのか。注目だ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)