【連載・山本恵大②】怯えて馬券購入…繰り返した無意味な行動 今を支える壮絶すぎるオフの記憶

テーマは「昨オフに味わった恐怖」

 人気連載「鷹フルシーズン連載~極談~」。山本恵大外野手の第2回目のテーマは「昨オフに味わった恐怖」です。今季は、2軍で打率4割を超える好成績を残して育成から支配下契約を勝ち取りましたが、昨季は2軍で打率1割台と低迷。自らを“戦力外候補”と覚悟するに至った当時の心境に迫ります。

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 2021年ドラフトの育成同期の中で、支配下登録された仲田慶介内野手、三浦瑞樹投手が、昨オフに戦力外通告を受けた。厳しい現実は、支配下を目指していた山本にとっても衝撃的な出来事だったという。そして、自身も1度自由契約となる育成3年目のオフ、「これはもうクビだ……」と覚悟する決定的な瞬間があった。

 2023年9月に行った、左膝蓋靭帯炎の手術から復帰した昨季。非公式戦では3割を超える高打率を残したものの、2軍では打率.162と低迷した。成績を鑑みると戦力外になってもおかしくはない――。そんな気持ちを抱く中で終えたシーズン。日本シリーズが終わった頃、山本は“電話”に怯える日々を過ごしていた。

「戦力外の電話が来ると思っていました。気が気じゃなくて。普段はやらないのにG1レースの馬券を買ってみたり、家にも帰れず、練習後にコンビニの駐車場で3時間ほど過ごすこともありました。家でご飯を食べていても、ふと考え込んでしまって……。箸を2本折ってしまったこともあります」

 そんな中、追い打ちをかけるように予想外の出来事が起きた。予定されていた韓国秋季教育リーグへの帯同が見送られ、代わりにフェニックス・リーグへの参加が決まった直後に異変が起きた。「荷物出しをしていたときに、足に力が入らなくなったんです」。新型コロナウイルスに感染したことが判明。両リーグとも出場が叶わず、「ああ、これはもうクビだ」と覚悟したことを明かす。

 それでも球団は育成契約を結び直し、山本に再びチャンスを与えた。その瞬間に何かが変わった。「残してもらえましたし、絶対に頑張ろうと思いました。今も、こうして野球ができていることが不思議なくらいです。学生時代にこれといった実績もなく、取り組み方も足りなかった。だから“ここでプレーできているだけで奇跡”という気持ちです」と吹っ切れて、再出発を踏み出した。

支配下昇格も戦力外、同期を見て感じたこと

 迎えた今シーズン、4月12日に支配下登録を勝ち取った。現在もウエスタン・リーグでは.376の高打率を残しているが、本人の表情はそこまで明るくない。「自分はまだ、外野手の中でも“下から数えた方が早い”立場だと思っています」。実際に自分と同じように育成から支配下になった同期が、わずか半年で戦力外となる現実も見てきたからだ。「プロ野球は残酷な世界だと思いました。だから、いくら打っても“次がある”とは限らない。常にクビと隣り合わせだと覚悟しています」と語る。

 支配下登録直後に1軍昇格を経験するも、4試合で9打数無安打に終わった。「『打たないと。やらないと』という気持ちが空回りしてしまった」と振り返る。それでも「また上がったら同じような気持ちになるかもしれないけど、支配下になって2か月が経って、背番号『77』にも少しずつ慣れてきました。前よりは落ち着いてプレーできる気がしています」と力強く語る表情はたくましくも感じる。

 昨オフに味わった“恐怖”は、今でも生きている。「もし本当にダメだったら、それはもう仕方ないです。でも、どれだけ痛くても、辛くてもやらないといけない。結果を出してもクビかもしれない。そういう世界なんだと思いながら、全力でやっています」。支配下登録を勝ち取った今もなお、山本恵大は“崖っぷち”に立ち続けている。これまでの苦しい経験がプレーの根底を支える“原動力”になっている。

(森大樹 / Daiki Mori)