3年連続日本一に輝いた2019年…現れた23歳の新星
鷹フルがお送りする工藤公康氏の単独インタビュー。今回は周東佑京内野手について語っていただきました。指揮を執った7年間でホークスを3度のリーグ優勝、5度の日本一に導いた名将が見出した“原石”――。周囲の助言を振り切ってまで起用を決めた信念と覚悟に迫ります。
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就任5年目の2019年。ホークスはレギュラーシーズンで2年続けてリーグ2位に終わったものの、クライマックスシリーズを勝ち抜き、3年連続の日本一をつかみ取った。このシーズン、すい星のように現れたのがプロ2年目の周東だった。開幕直前の3月下旬に支配下選手登録を勝ち取ると、1軍の舞台で25盗塁をマーク。その驚異的なスピードで何度もチームを救った。
シーズン開幕から間もない4月6日、周東はプロ初昇格を果たし、そのまま最後まで1軍の舞台を駆け抜けた。まだファンにも広くは知られていない23歳をなぜ抜擢したのか。決断の背景には工藤氏の揺ぎ無い“信念”があった。
2軍で打率1割台も…1軍の力になると“確信”
「一番最初に(1軍に)上げた時にはコーチの推薦はなかったんですよ。逆にコーチの方からは『もっとバッティングが良くなってから』『もっと守備が良くなってから』という意見ももらっていました。確かに彼は2軍の試合で打率1割台でしたし、ほぼセンターしか守れなかった。それでも私が『いや、いいんだ』と言って、決めましたね」
周東の課題は明白だった。プロ1年目の2018年は2軍戦で90試合に出場。27盗塁を決めたものの、打率.233にとどまった。翌年は春季キャンプからA組に帯同し、オープン戦にも14試合に出場したが、打率.091とアピールすることはできず。開幕を2軍でスタートしたが、打率.182と結果を残せてはいなかった。
常にリーグ優勝、そして日本一を求められる環境の中で、工藤氏は周東を1軍に昇格させた。それは何よりも、最優先事項であるチームの勝利に向けた大きな力となることを確信していたからだ。
「大事な場面で盗塁ができる。その事実だけで上げました。あの年は(試合の)6回が終わった時点でリードをしていると、一時は勝率が9割を越えていた。だから、同点の時に『周東、ランナーが出たら代走で行くぞ。アウトになってもいいから、とにかくタイミングを見て走ってくれ』と言って。まだデータもなかったですし、盗塁もほぼほぼ決めてくれました」
目を見張った向上心「自分から言ってきて…」
2019年シーズン、6回終了時点でリードしていた際の勝率は最終的に.877だったが、試合終盤での“代走・周東”は間違いなく相手チームにプレッシャーを与えた。「彼にグリーンライトを渡して、自分のタイミングで走っていいからと。二塁までいってくれれば、バントからの外野フライやボテボテのゴロで1点が取れる。それでチームが勝てていました」。
工藤氏が目を見張ったのは、周東の類まれなスピードだけではなかった。「彼は自分で『今はセンターしかできないので、もっと外野を守れるようになりたい』と言って、当時は外野の全ポジションができるようになりました。次の年は『内野を練習したい』と言い出てきたので、本多(雄一)コーチと相談して『やらせてみましょう』となりました」。
唯一無二の武器で1軍での居場所を確保したことに満足せず、プレーヤーとしてさらなる高みを目指そうとする周東の姿勢は、工藤氏にとっても頼もしい限りだった。「本当にいい選手ですよね」。7年間の監督生活を終え、ホークスのユニホームを脱いだ今も、周東を見つめるまなざしは優しい。
名将に見出された男は、2020年にプロ野球新記録となる13試合連続盗塁という偉業を成し遂げ、育成出身選手では初となる盗塁王のタイトルも獲得した。2023年のWBCでは侍ジャパンの一員として世界一に大きく貢献。一気に球界のスターへと駆け上がった。工藤氏との出会いは、まさに運命を変えた。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)