先発マスク減少も揺るがぬ捕手の“矜持” 海野隆司が腐らない理由「左右のエースを…」

先発マスクをかぶり、無失点勝利に貢献した海野隆司【写真:古川剛伊】
先発マスクをかぶり、無失点勝利に貢献した海野隆司【写真:古川剛伊】

有原は5月9日オリックス戦以来となる3勝目

 エースとのコンビでつかみ取った約3週間ぶりの白星だった。「なかなか勝ちが付いていなかったので。その意識はしていました」。3日の中日戦(みずほPayPayドーム)でスタメンマスクをかぶり、無失点勝利に貢献した海野隆司捕手の表情には安堵感が浮かんでいだ。

 決して楽な展開ではなかった。先発の有原航平投手は3回を除いて毎回走者を背負う苦しいピッチング。それでも海野は懸命にリードし、相手に得点を与えなかった。4月11日のロッテ戦(ZOZOマリン)から、8試合連続で右腕とバッテリーを組んでいる27歳。試合前までの直近2度の登板はいずれも黒星。気にしないわけがなかった。

 正捕手候補の最右翼としてシーズン開幕から多くの試合でスタメンマスクをかぶってきた海野。一方で、5月以降は嶺井博希捕手や渡邉陸捕手に先発を譲る場面も増えてきた。現状、自らが置かれている立場をどう捉えているのか。言葉にしたのは冷静な分析と、捕手としての“意地”だった。

「今組ませてもらっているのが右のエース、左のエースというところなので。週頭のゲームをとにかく取るっていうことだけを考えています」。右のエースはもちろん有原を指す。左のエースはリバン・モイネロ投手だ。現在5勝負けなし、防御率1.47と抜群の安定感を誇る左腕とは9試合全てでバッテリーを組んでいる。

マウンドで有原航平と話す海野隆司【写真:古川剛伊】
マウンドで有原航平と話す海野隆司【写真:古川剛伊】

「18/26」→「8/23」も…変わらぬ対話姿勢

 今シーズンは開幕戦こそ谷川原健太捕手にスタメンマスクを譲ったが、3、4月の全26試合中、実に18試合で先発起用された。一方で5月は全23試合のうち、スタメン出場は8試合と減少。風向きが変わったことは自身が一番感じているが、捕手としてやるべきことをおざなりにはしない。

「やっぱり自分からピッチャーのことを理解しないとといけないので。僕の方からコミュニケーションを取って、色々と反省なり良かった点なりを話しながらですね。毎試合勉強していってます」

 昨季は最多勝に輝いた有原に関しては、今季ここまで3勝5敗、防御率3.90と本来の姿にはまだ遠い状態だ。黒星を喫した試合の後には話しかけづらい瞬間も「確かにあります」と言うが、「タイミングを見てって感じです」と真正面から向き合うことは変わらない。

 だからこそ、7回無失点の好投で5月9日のオリックス戦(京セラドーム)以来、25日ぶりの白星を挙げた右腕に対して「それはもう有原さんが一番勝ちたかったんじゃないですかね」と気持ちをおもんぱかった。有原自身も「よくリードしてくれました」と海野への感謝を口にした。

 出場機会が減っていることはもちろん自覚している。それでも、左右のエースの“相棒”を任されていることは、首脳陣が信頼を寄せている証でもある。現状を受け入れず、下を向くのは捕手がやるべき仕事ではない。海野は歯を食いしばりつつ、責任重大な役目を懸命に果たす。それだけだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)