【連載・宇野真仁朗②】刺さった兄の言葉「俺の気持ちは分からない」 支えた家族との絆 …プロ決断の背景

鷹フルの取材に応じた宇野真仁朗【写真:森大樹】
鷹フルの取材に応じた宇野真仁朗【写真:森大樹】

テーマは「家族の支えとプロ入りまでの葛藤」

 人気連載「鷹フルシーズン連載〜極談~」。今回はドラフト4位ルーキー・宇野真仁朗内野手の第2回です。テーマは「家族の支えとプロ入りまでの葛藤」。早実では主将、そして4番としてチームを甲子園に導いた、高校通算64本塁打のスラッガー。家族に支えられる一方で、衝突することもあったと明かします。揺れ動いたプロ入りの決断に至るまでの思いを語ってくれました。

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 高校進学の時点で、頭には「そのまま早大へ」という選択肢もあった。高校では4番を務め、3年時にはチームを甲子園に導いたが、大会直後でも「そこまでプロとかは考えていなかった」と振り返る。

 これまでの野球人生を支えてきたのは家族の存在だった。「兄の影響は大きかったですね」と語るように、2人の兄からの影響は大きかったという。最初に野球を始めたのは長男で、「試合をたくさん見に行きました。全力でプレーする姿を見て、自分も自然と野球をやりたいと思うようになった」と語る。

 家族だからこそぶつかる瞬間もあった。今も忘れられないのが、中学2年時の出来事。4歳上の次男・竜一朗さんは早実で甲子園を目指していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で高校3年の夏の大会は中止に――。

 当時、父と竜一朗さんが電話をしていた時のこと。電話を代わった宇野に、竜一朗さんがこう言った。

「『真仁朗には、俺の気持ちは分かんないだろ』って。その言葉は正直刺さりました。喧嘩ってほどではなかったんですけど、すごく印象に残っています」。兄が目標を失い苦しんでいる姿が鮮明に思い浮かんだ。

 それから兄の思いも背負って、早実で野球に打ち込んだ。4年後、夏の甲子園へ出場を決めた際には言葉をかけられた。「『お前たちが甲子園に行ってくれて良かった。自分たちの代の悲しみ、苦しみを晴らしてくれて本当にありがとう』と言ってくれたんです。あのときは本当に、やってきてよかったなって思いました」と振り返る。

プロ入りのきっかけとなったホークスOBからの言葉

 進路を考える中でも、家族から多くの助言を受けた。竜一朗さんは早大野球部で4年間プレー。その環境について詳しく話してくれたという。社会人野球まで経験した父も、幅広い人脈から情報を集めてくれた。ただ、最終的には「自分で決めなさい」と背中を押された。「材料は十分もらったけど、決めるのは自分だと教えてもらった」と振り返る。

 早実高の6学年上で、現西武の野村大樹内野手にも相談した。「周りはいろいろ言ってくると思うけど、結局は自分で選べばいい。どっちに進んでも正解だから」。その一言も、大きなきっかけになった。

 現在は2軍戦に出場し、好成績を収めている宇野。「プロに来たことで、本当に野球に集中できる環境に入れた。野球が本当に好きな人にとっては、すごくいい場所だと思います。大学に進んでも素晴らしい経験になっていたとは思いますけど、今の選択は間違っていなかったと思います」と語る。

 高校時代は寮がなく、実家からも通えない距離にあったため、母と2人での生活。日々の家事や弁当作りなど、生活面で多くの支えを受けていた。「野球に集中しがちなんですけど、話をする中で気持ちがすごく楽になりました。自分が面倒だと思うことを、全部やってくれていた。感謝しています」と言葉をかみしめる。

 ドラフト指名直後、家族からかけられた言葉はただ一つだった。「とにかく、プロで活躍する真仁朗が見たい」。その期待を胸に、宇野はプロの世界で一歩ずつ前に進んでいる。自分を支えてくれた家族に、活躍という形で恩返しをするために――。

(森大樹 / Daiki Mori)