小久保監督も目を細め「唯一の収穫やね」
ホークスファンに大きな夢を抱かせるようなデビュー戦だった。1日の楽天戦(楽天モバイルパーク)。3点ビハインドの8回にプロ初登板を果たしたのが大野稼頭央投手だった。3年目の20歳左腕は、最速147キロの真っすぐと100キロ台のスローカーブを織り交ぜる緩急の利いた投球を披露。1回を1安打1奪三振無失点の好投に、小久保裕紀監督も「(この日)唯一の収穫はこれやね」と目を細めた。
やはり目を引いたのは力強い真っすぐだった。「真っすぐが一番伸びましたね。球速はもちろん、球筋もそうで。この1年でかなりランクアップしましたね。ここまでよく成長できたなと。非常に楽しみです」。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も賛辞を惜しまなかった。大野が急成長を遂げた要因とは何だったのか。
「ウエートだったり、食事だったりっていうところを、一から見直してやりました。どうしても痩せちゃうので。とりあえず、時間があれば何かしらを食べるっていうのはずっとやってきましたね」
入団当初は60キロ台前半だった体重は一気に10キロ近く増量し、現在は人生で最も重たいという73キロになった。華奢だった左腕はたくましさを増し、比例するように真っすぐの質も向上。大野の徹底した食べっぷりに、筑後のファーム施設では“悲鳴”が上がったという。
「練習が終わったら食堂に行って。またウエートが終わったら食堂に行って。そんな感じでした。食堂の人からは『もう、おにぎり取り過ぎよ!』みたいに言われています。もちろん冗談っぽくですけど」
苦しかった昨春も下向かず「適当に生きてきたので」
プロ入り後、最大の課題は真っすぐにあった。「決めにいった真っすぐをファウルにされたりとか、簡単に空振りを取れなかったりとかして。そこで苦しんで、変化球頼りになってしまっていたので。今年は強さが出た分、真っすぐで押して、変化球でうまく緩急をつけられるようになったのが一番大きいかなと思います。今は自分の理想のピッチングができていますね」。
昨春のキャンプでは体に異変がなかったにもかかわらず、状態が上がらなかった。通常メニューから外れ、体づくりに取り組む日々を送った。「思うように投げられなかったのが一番きつかったですね」。
プロ入り後で一番苦しんだ時期だったが、「普段からあまり鬱っぽくなるタイプでもないので。これまでも結構、適当に生きてきたので。『なるようになれ』っていう感じでした」。暗くなることなく、前向きにトレーニングを重ねてきた結果が、ようやく花を開こうとしている。
自主トレで指示した和田毅さんには1軍昇格が決まった際に大野から連絡した。「『緊張すると思うけど頑張って。2軍でやってきたことをやれば大丈夫だから』と言ってもらえて。勇気をもらいました」。1軍で初勝利を挙げた際には「何かおねだりしてもいいですかね?」。師匠にいい姿を見せることもモチベーションになっている。
苦戦を強いられた3、4月、そして本来の姿を取り戻し始めた5月を終え、戦いは6月へ――。ファンの心をつかんだ20歳左腕の投球が、チームにさらなる勢いをもたらしそうだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)