
リハビリ期間があったからこそ得られたもの
人気連載「鷹フルシーズン連載~極談~」。今回登場するのは、ドラフト4位ルーキーの宇野真仁朗内野手です。今回のテーマは、「プロ入り直後のリハビリ期間と同期のライバル」について。現在、ウエスタン・リーグで打率4割を超える活躍を見せる18歳ですが、プロのスタートは決して順風満帆ではありませんでした。
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入団前に右肘の炎症が判明し、昨秋からノースロー調整を強いられた。さらに春季キャンプ中には、打撃練習で左手首を負傷。シーズン開幕を目前にした18歳にとって、想像もしなかったスタートだった。
しかし4月に実戦復帰を果たすと、2軍の舞台で打席に立つたびに存在感を放つようになった。宇野が振り返るリハビリ期間、そして同じ内野のポジションを争う同期・石見颯真内野手との関係とは――。
春季キャンプのスタート時、掲げていた目標は「怪我なくシーズンに入ること」だった。「やっぱり怪我をしたときは『やってしまったな』という気持ちは正直ありました」と、当時の心境を語る。そんな中、キャンプ中に行われた1軍の練習試合ではドラフト5位の石見が結果を残していた。「焦りというわけではないですけど……」と、思わず本音ものぞかせた。
そんな中で支えとなったのは、中谷将大リハビリ担当コーチ(野手)をはじめとした周囲の声だった。「焦らず、今できることをやろう」。その言葉を信じて、地道にトレーニングに励んだ。主にウエートを中心とした下半身強化に取り組み、体づくりを続けた。
「試合が始まると、どうしてもトレーニングの時間は減ってしまう。でもケガをしたことで、体づくりに集中できた。ポジティブに捉えられたと思います」
ピタッとしたズボン越しにも分かる太ももの太さは、その成果を物語る。下半身の強化は打撃にも直結し、スムーズな復帰を後押しした。「今の打撃レベルまで来られたのは、トレーニングを積み重ねてきたからだと思います」と、自信ものぞかせる。
リハビリ期間には、3月中旬に合流した栗原陵矢内野手と一緒に練習する時間もあった。「野球のことも、それ以外のこともいろいろ話しました」。10歳も離れた先輩が自然と声をかけてくれたことで、心が軽くなったという。
開幕直後の1軍では離脱者が相次ぎ、同じ遊撃を守る今宮健太内野手らとも筑後で時間を過ごした。「やっぱり1軍で活躍する選手は、スイッチの入れ方がすごいなと思いました」。一流の姿勢に触れたことで、意識と視野が大きく広がった。
首脳陣も評価する「宇野と石見」、2人の関係性
4月の実戦復帰後は、打席に立つたびに結果を残している。現在、2軍で打率4割を超える好成績を記録し、首脳陣からの評価も急上昇中だ。村松有人2軍打撃コーチは「広角に打てるし、内も引っ張れる。ミート力は2軍でもトップクラス」と絶賛。松山秀明2軍監督も「試合に出るチャンスを自分の力でつかんでいる」と賛辞を惜しまない。
そんな宇野にとって、同じ内野手で高卒1年目の石見の存在も良い刺激であり、良い仲間となっている。「石見が結果を出していると『自分もやらなきゃ』と思える。いいライバルのような存在」。一方の石見も、「宇野ちゃんが打ったら、自分もつなげなきゃと思う」と語っており、互いに背中を押し合っている。
それでも「一番仲がいいのは?」と聞くと「石見ですかね、一番一緒にいると思います。野球の話は3割くらいで、あとは他愛もない話ばかり(笑)。なんか柔らかいというか、明るい感じです。あんま考えてなさそうですけど、やっぱやる時は集中してますし、そこら辺はすごいなって思ってますね」。良きライバルであり、良き仲間。そんな関係性が、2人の成長に確かな影響を与えている。
早稲田実業時代には木製バットで64本塁打を記録し、注目を集めたスラッガー・宇野真仁朗。プロの世界でも着実に力をつけている。遠回りに見えたリハビリ期間を「得られたものは本当に多かった」と振り返り、現在の目標は「今シーズンの1軍昇格」。石見とも 「一緒に(1軍へ)行けたら一番いいのかな」。焦らず、自分の歩幅で。それでも着実に、階段を上がっている。
(森大樹 / Daiki Mori)