25分の中断中に決断した“賭け” 緒方理貢の二盗に隠された真実…「鈴木さんでくる」

中村晃の中前打で三塁に向かう緒方理貢【写真:古川剛伊】
中村晃の中前打で三塁に向かう緒方理貢【写真:古川剛伊】

1点追う8回に代走で登場→同点のホームイン

 降雨による25分の中断中に、懸命に戦っていた。試合が再開するか不透明な状況でも、集中力を切らすことのなかった緒方理貢外野手。徹底したシミュレーションが逆転勝ちを呼び込んだといっても過言ではなかった。

 30日の楽天戦(楽天モバイルパーク)。1点を勝ち越された直後の7回2死三塁で試合は1度ストップした。プレーが再開し、迎えた8回の攻撃。代わりばなの鈴木翔から先頭の近藤健介外野手が四球を選ぶと、代走に送られたのが緒方だった。続く中村晃外野手の6球目にスタートを切ると、難なく二盗に成功。中村の中前打で三塁に進むと、柳町達外野手の二ゴロの間に同点のホームを踏んだ。この回さらに打線がつながり、一挙3得点。チームは会心の逆転勝ちを収めた。

 この日のヒーローに選ばれたのは、2回に同点の適時打を放ち、8回には勝ち越しの押し出し四球を選んだ川瀬晃内野手だった。緒方の盗塁は一見目立たないシーンに映るが、その裏には幾重もの伏線があった。

「8回は鈴木さんがくるだろうと読んでいました。先頭(の近藤)から左(打者)が4人並んでいたので。藤平か鈴木さんのどちらかだろうと。楽天は今、決まった抑えがいない状況なので。そう考えた時に鈴木さんの可能性が高いんじゃないかと思って、ベンチの裏でビデオをチェックしていました」

 試合が中断したタイミングは7回の守備中だったが、その時点で次の回の攻撃を想定していた。あくまで緒方はベンチスタート。どのタイミングで出番があるかは当然わからない。それでも、必ず見せ場がやってくると信じて準備を進めていた。

二盗に成功する緒方理貢【写真:古川剛伊】
二盗に成功する緒方理貢【写真:古川剛伊】

近藤の四球直後にベンチを飛び出した“理由”

 近藤が四球を選んだ瞬間にベンチを飛び出したのにも理由があった。「一塁付近の土の状態は実際に踏んでみないと分からないので。(防水)シートが張られていたこともあって、走れる状態だった。(二盗は)いけるなと思いました」。

 中村晃の打席では2球目にもスタートを切っていた。結果はファウルとなったが、タイミングはバッチリ合っていた。「ベンチから自由にスタートしていいよというサインだったので。思い切っていこうと思っていました」。1点ビハインドの8回というしびれる場面でも、臆することは一切なかった。

「もうデカいっすね。デカい。あそこは大きなポイントでしたね。ノーアウトでスタートが切れるか切れないか。勇気がいる場面なんですけどね。彼も自分に求められているものを意気に感じてやってくれているので。なにより頼もしいです。任された仕事とは言っても、その一瞬一瞬にはすごく重圧がかかるので。その圧に勝った彼の準備ですよね」

 普段は辛口のコメントを口にすることも多い本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチも手放しで緒方の姿勢を称えた。それだけ大きなスチールだった。

「自分にできることは準備なので。そこで誰よりも手を抜かないこと。それだけです」。チームの逆転勝ちに大きく貢献しても、緒方の表情が緩むことはなかった。12球団屈指の選手層を誇るホークスでも欠かせない背番号57。自らの存在価値を確かに示したワンプレーだった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)