野村も貴重な同点打…勝利導いた2人のヒーロー
劇的な幕切れを迎える1分30秒前、周東佑京内野手と野村勇内野手はネクストバッターズサークルで肩を並べていた。一打サヨナラのピンチを迎えた日本ハムベンチがタイムを取ったわずかな時間で、交わしたのはともに一言のみ。意を決したかのように選手会長は打席に向かった――。
28日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)は、1、2番コンビの活躍でサヨナラ勝ちをつかみ取った。1点ビハインドの7回2死三塁で野村が左前に同点打を運ぶと、同点の9回2死二塁では周東が右翼手の頭上を越える二塁打を放ち、勝負を決めた。歓喜の直前で交わされた2人の会話に迫った。
「申告敬遠もあるかなとは思っていました。勝負してくるにしても、馬鹿正直に真っすぐでくることはないと思ったので。そこはあの場面で冷静に色んなことを考えながらできたのかなと思います」
9回の打席、周東は低めに外れた初球のフォークをしっかりと見送り、続けてきた2球目のフォークをしっかりと振り切った。変化球勝負で来るだろうと、頭を整理したことで生まれた一打。打席に向かう前の野村とのやり取りが功を奏したのかと思いきや、予想外の言葉が返ってきた。
後輩の証言「力んでいるようには全然見えなかった」
「僕が『あー、緊張するなー』って言って、勇も『緊張しますねー』って。本当にそれだけです」
明かされたのは何気ないやり取りだった。一方で、野村勇に聞くと少しニュアンスが変わっていた。「周東さんが『こういう場面で力んじゃうんだよねー』と話していたので、『決めてください』って言いました」。頼れる選手会長が、後輩からの“お願い”を見事に実現した形だ。
“弱気”な言葉とは裏腹に、野村が見た背中はたくましかった。「力んでいるようには全然見えなかったです」。ここぞの場面で冷静さが際立った周東はこう振り返った。
「去年初めて規定(打席)を立たせてもらった経験が大きいのかなって。あとは周りの先輩、(中村)晃さんや(今宮)健太さん、コンさん(近藤健介)とこれまでも色々と話させてもらって、整理できるようになってきたのかなと思います。今は成績もいいので、焦らずに打席に迎えているところもありますね」
周東を申告敬遠で野村勝負も十分に考えられた場面で、後輩にあえてかけた言葉。そこには緊張を解く意図もあっただろう。試合の命運を分ける場面で、周りへの気配りも忘れない“姿勢”。一瞬のやり取りに見えたのは、選手会長の成長だった。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)