谷川原健太に「そんな姿見せちゃいけない」 2軍降格後に見えた“変化”…若手投手も感謝した行動

谷川原健太【写真:冨田成美】
谷川原健太【写真:冨田成美】

細川コーチ「うるさいくらいうるさい」

 2軍降格から約1か月半――。谷川原健太捕手の姿は、試合後に人けのなくなった室内練習場にあった。試合の熱気が残る筑後で、彼は一心不乱にバットを振り続けていた。

 降格直後、細川亨2軍バッテリーコーチからは「試合中に反省するな」と厳しい言葉が飛んだ。現在は、その教えを胸に、選手としての在り方をゼロから見つめ直している。

 2軍で過ごす日々の中で、「いい形で変化が表れている」。細川コーチからは谷川原の“成長の兆し”が見えていた。若手投手も感じ取っていた変化とは?

 プロ10年目にして初の開幕スタメンマスクを任された谷川原だったが、わずか4試合の出場で2軍降格となった。1軍の舞台で見えたのは、自身のミスや打たれたことを引きずり、ひとり殻に閉じこもる姿だった。細川コーチは、プロとしての“姿勢”を説いた。

「みんなが頑張っている中で、そんな姿を見せちゃいけない。出ている以上は責任があるし、反省するのは試合が終わってから。そこも含めて、『反省するのは試合終わってから』と言ったんです」

 2軍で懸命にプレーする谷川原に少しずつではあるが、変化が現れてきていると明かす。「今はもう、うるさいっていうくらいうるさいですね(笑)。それがタニって人間だと思うし、それを出さないとプロの世界では生きていけない。閉じこもってたらダメ」と続けた。

 もともと明るい性格だからこそ、野球の話だけでなく日常のコミュニケーションも大切にしてほしいと考えている。

「本人は『コミュニケーションが課題』と言っていましたが、『そんなことないだろ』って(笑)。野球の話ばかりじゃなくて、『これ好きなの?』みたいな雑談の中から、相手の笑顔を引き出して信頼関係につながることもたくさんある」と語った。投手との“会話”についても、「今は良い形で表れていると思います」と変化が見えたことを明かした。

マウンド上で言葉を交わす谷川原健太(左)と川口冬弥【写真:竹村岳】
マウンド上で言葉を交わす谷川原健太(左)と川口冬弥【写真:竹村岳】

川口が感謝した谷川原の”気付き”

 その変化は、チームメートにも確実に伝わっていた。ファームで開幕から11試合連続無失点の投球を見せている育成ルーキー右腕・川口冬弥投手も、谷川原とのバッテリーに手応えを感じているひとりだ。

「谷川原さんと組ませてもらうことが多いんですけど、球種や配球などの投球の幅が広がっています。最近使い始めたスライダーやチェンジアップにも『このボール、自信持って投げていいよ』と声をかけてくれる。あの言葉はありがたいです」

 ただ球を受けるだけではなく、ピッチャーの心の動きまで読み取る“気付きの力”にも驚かされたと明かす川口。「もっと外していいよ」といったわかりやすいジェスチャーが試合中にも飛んでくるといい、「いろいろ勉強させてもらいながら毎試合やってます」と語った。

 谷川原自身もその変化を実感している。「1軍にいた時は全くやってなかった。今はジェスチャーだったり、投手への言葉かけができるようになってきました。ファームは年下のピッチャーが多いので、気持ちよく自信を持って投げてもらえるように意識しています」。

試合中、ノートにメモをとる谷川原健太【写真:飯田航平】
試合中、ノートにメモをとる谷川原健太【写真:飯田航平】

谷川原から滲む覚悟「自分の価値を…」

 構え、配球、ブロッキング……。今、取り組むテーマは「全部」と語る。「やれることをやる。全力疾走だったり、当たり前のことをちゃんとやるって決めています。ファームの試合でも、誰が見ているかわからない。自分の価値を下げないようにと思って」。

 練習への姿勢にも明らかな変化が見られた。降格当初よりも丁寧にブロッキング練習を行い、「今日はこれをやりたいです」と自発的に動く場面も増えている。細川コーチも「他の2軍捕手陣からの刺激も好影響になっている」と話す。

 プロ10年目で迎えた初の開幕スタメンマスク。わずか4試合での2軍降格という現実を経て、谷川原健太はキャッチャーとして着実に変わり始めている。表情も、言葉も、プレーも、そのすべてに決意がにじむ。

 力強く放った言葉は、「もう、やるしかない」。谷川原の瞳には、覚悟と闘志が宿っていた。

(森大樹 / Daiki Mori)