
好投の裏側にあった同僚との会話とは?
人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。上沢直之投手の第4回は「恐れない変化と、変えなかったこと」がテーマ。直近2試合でわずか1失点と、快投が続く。その裏側には、先発前日に同僚たちと交わした、“何気ない会話”があった――。そして開幕直後、苦しんだチーム。新加入の右腕は何を見つめていたのか。
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「右打者のインサイドに、しっかり突っ込んでいけた」。そう振り返ったのは、5月11日のオリックス戦(京セラドーム)で今季3勝目を挙げた上沢だ。8回を投げて4安打1失点の快投。その裏には、ある“変化”への挑戦があった。
そのきっかけは、先発前日の食堂での何気ないやりとりだった。同じテーブルについた柳町達外野手と海野隆司捕手との会話の中で、右腕はふとした思いを口にする。
「プレートの位置を少し変えてみようかなって、柳町と海ちゃん(海野)に相談したんです。同じテーブルになったので、自然とそういう流れになって。『この角度で投げたらどう思う?』って聞いたら、柳町が『僕は、結構イヤですね』と返してきたんです」
この言葉を受けて翌日の試合で即実行。プレートの位置を微調整することで、右打者の内角へ投じるツーシームはより角度が加わり、相手にとっては厄介な球となった。
もちろん、シーズン中に実戦でプレート位置を変えるのは容易なことではない。投球角度、球筋、視界。すべてが微妙に変化する。繊細な投手であれば、投球位置がたった3センチ変わるだけでも投げづらさを感じるほど。それでも上沢はこう語る。
「合わなければやめればいいだけ。やってみないとわからないことの方が多いし、より良くなると思って挑戦しています。ブルペンで『完璧だ』と思っても、実戦で通用しなければ意味がない。だったら最初から試合で試してみた方が早い。怖さはあるけど、それ以上に“興味本位”の気持ちの方が強いんです」
この大胆な変化も、同僚の何気ない一言がヒントになった。「野手の意見って、すごく参考になるんです。先輩・後輩は関係なく、『どう思う?』っていろんな人に聞きます」と積極的に周囲に意見を求める。ふとしたやりとりの中から得られる発見を大事にしている。
捕手との会話で生まれる呼吸
最も密に関わる捕手とのコミュニケーションも重要な要素だ。「やっぱり会話が大事ですね。『こういう場面でこういうボール欲しい』って言ってもらえる方が、僕も投げやすい。お互いの意見を持って試合に臨みたいです」。
18日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では勝敗こそつかなかったが、8回無失点の快投を披露。試合後には、「嶺井(博希捕手)さんと話し合った通りの投球ができた」と振り返った。ここ3試合はベテラン捕手とバッテリーを組み、呼吸も着実に深まってきた様子だ。
「経験豊富な方ですし、試合中にも“嶺井さんの考え”をしっかり伝えてくれる。僕も嶺井さんに引っ張ってもらったり、逆に自分の考えを伝えることもできるので。頼る部分は大きいと思いますね」
苦しい時期でも“変えなかった”もの
19日現在、チームの5月の成績は11勝5敗。快進撃を続けているが、開幕直後は最下位も経験するなど、厳しい戦いが続いていた。新加入の上沢は、その時期をどう受け止めていたのか。
「雰囲気が暗くなったら結果も変わらない。だからこそ、いつも通り明るく、楽しくやることが大事だと思ってました。個々の力は本当にすごい。来るべき選手が来れば勝てると思っていたので、心配はしていなかったです」
そして、こう続ける。「いい時も悪い時も、常に同じでいたい。“勝っている時だけ明るい”っていうのはあまり好きじゃない。だから僕は、普段からなるべく何も変えないようにしています」。野球の中で“変わらないこと”の大切さを実感しているからこそ、上沢はどんな状況でも平常心を崩さない。
主力の柳田悠岐外野手や近藤健介外野手らが離脱する中でも、上沢の安定感はチームを支える柱となっている。その快投の裏には、恐れを知らぬチャレンジ精神と、仲間との対話から生まれた深い野球観が凝縮されていた。
(森大樹 / Daiki Mori)