勝負の分け目で嶺井博希が取ったタイムの“意味” 流れ止めてまで大関友久に伝えた「言葉」

大関友久(右から2人目)に声をかける嶺井博希(右)【写真・古川剛伊】
大関友久(右から2人目)に声をかける嶺井博希(右)【写真・古川剛伊】

一打同点の6回に倉野コーチと“目配せ”

 まさに勝利と敗北の分岐点でベテラン捕手は“動く”ことを選んだ。「どっちに転ぶか分からないところでしたけど、迷いはなかったです」。試合後、真剣な表情で振り返ったのは嶺井博希捕手だった。

 17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、その場面は1点リードの6回に訪れた。1死二塁で先発の大関友久投手が阿部を空振り三振に仕留め、大きく吠えた直後だった。嶺井はベンチの倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)とアイコンタクトを交わすと、タイムをかけて左腕のもとに向かった。

 結果から言えば、続くフランコを遊ゴロに打ち取り、この回を無失点でしのぎきったことが勝利へとつながった。マウンドに集まった内野陣、そして倉野コーチの前で嶺井が発した言葉とは――。

この日1安打のフランコと前日HRの辰巳…難しい選択

「ここがきょうのゲームで一番のポイントだと思ったので。(フランコに対して)どういうボールを選択するか、攻め方をはっきりさせたかった。そのうえで(大関に)『勝負に行くぞ』と伝えた感じですね」

 場面を振り返ると、フランコには初回に中前打を浴びていた。次打者の辰巳はここまで併殺打に四球と、安打は許していなかったものの、前日16日の試合で本塁打を放っていた。どちらの打者との対戦を選ぶのか。「あやふやなままいきたくなかった」と嶺井。倉野コーチも交え、しっかりと確認し合った。

「嶺井さんがタイムを取ってくれて。バッテリーとして攻めていきましょう、強気でいきましょうという確認ができました」。大関はベテラン捕手への感謝を口にしたうえで、続けた。「本当に(佐藤)直樹(外野手)のプレーに勇気をもらいましたし、あそこで投げ切れるかどうかがこの試合のカギを握るなと思っていました」。

会話を交わす嶺井博希と大関友久【写真・古川剛伊】
会話を交わす嶺井博希と大関友久【写真・古川剛伊】

試合を止める勇気ある決断も「怖がっていたら…」

 大関の言葉通り、6回無死一塁では佐藤直がフェンスに激突しながら大飛球を掴むファインプレーがあった。その直後にフランコを魂のこもったボールで三振に取った。球場の雰囲気も一気に盛り上がったところで、嶺井はあえて試合を1度止める決断を下した。流れが変わる可能性もあった中で、迷いはなかったのか。

「あそこは1人1人、1球1球が勝負だったので。そこは考えていなかったです。(流れを変えてしまうことを)怖がっていたら、プレーできなくなってしまうので」。嶺井が信じた直感は、結果的にチームを勝利に導いた。

 今シーズンの開幕を2軍で迎えた嶺井だったが、5月以降はスタメンマスクをかぶる機会が増えつつある。「やることは特別変わらないですね。しっかり投手と話して、準備して、試合に挑んで。反省を次に生かしていくっていうだけです」。あっけらかんと語るところも、らしさがにじみ出ていた。

「もしかしたら、あの場面でタイムを取ったことがよかったのかもしれないですね。勝ててよかったです」。最後まで謙虚に振り返った33歳。試合の分かれ目で迷うことなく動けるのも、捕手として重要な要素であることは間違いない。“目に見えないファインプレー”だった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)