今季初の中堅スタメン…首脳陣も称賛した4回のプレー
新加入して間もない後輩への気遣いがにじんだシーンだった。15日の西武戦前、本拠地のグラウンドでやや硬い表情を見せていたのが、12日に巨人からトレード移籍した秋広優人内野手だった。首脳陣は22歳をさっそく左翼で先発起用することを決めた。緊張して当たり前の状況で、そばに駆け寄ったのが緒方理貢外野手だった。
試合は5-0で快勝。流れを呼び込んだのが緒方のビッグプレーだった。1点リードで迎えた4回。先頭の西川が放ったセンター前に落ちそうな打球を完璧なタイミングでダイビングキャッチ。先頭打者の出塁を許すか許さないかで流れが変わりかねない場面。「大きなプレーだった」と首脳陣も舌を巻くほどの好守だった。
このプレーも試合前のシーンと無関係ではなかった。背番号57が明かした秋広との会話。そして首脳陣の言葉から「緒方理貢」の価値に迫る。
「『僕が声を出したら僕が捕るから』と。あとは好きなようにやっていいよと話しました。(ホークスでの)決まり事もわからないと思うので、守備のことはしっかり伝えました」
緒方が伝えたのは、外野手間における“ルール”だった。「やりやすい環境にするのが僕らの役目。話せるような関係でいたい」。チームに加わって間もない秋広を気遣うと同時に、試合への備えも忘れなかった。
実はこの日、緒方にとって今季初のセンターでのスタメン起用だった。自身のビッグプレーについて「1歩目がよかったかなと思います」と淡々と振り返る。「試合前に自分がどんな反応ができるかは確認していた。あとは自信を持ってやろうと思っていました」。その言葉には、入念な準備と強い覚悟がうかがえた。
好守について、奈良原浩ヘッドコーチは「高い能力があることは分かっていて、それを見込んで使っている。能力通りの動きをしてくれて助かった」と評価。「先頭打者だったので、あのプレーがヒットか(アウトか)で展開が違う。大きなプレーだった」と賛辞を惜しまなかった。
大西コーチが「まだまだ上手くない」と語る理由
大西崇之外野守備走塁コーチも、「緒方、川村(友斗外野手)、(笹川)吉康(外野手)はキャンプから全ポジションの打球を散々捕ってきた。どこでも行ける状態にしている」と明かす。昨季、緒方は外野全ポジションで50イニング以上を守り、守備力を評価する指標「UZR」も全て平均を上回る数値を記録。“ユーティリティ組”としての努力が、好プレーにつながった。
一方で「まだまだ上手くない」とも評する。特に今年はレフト線でスライディングキャッチを試みたものの、打球を落とした場面があった。「あれを捕れないと出ている意味がない」と守備面でのさらなる進化を求めている。「100%を目指さんことにはね。だけど、1球捕って、自信を持って。もっと上手くなってほしい。今日のはナイスプレーやった」と成長への期待を示した。
打撃では、ここ7試合で4度2番に起用されている。この日も2番で先発したが、4打数無安打。7回には無死一塁で併殺打となった。それでも奈良原ヘッドコーチは、「クリーンアップにつなぐ役割や、塁に出たときの機動力には期待している」と評価。続けて、「まだ課題も多いけど、こうして試合に出ることで見えてくることもある。それを一つずつ潰していきながら、いつ出ても安定したパフォーマンスが出せるようになってほしい」と、今後に向けた期待を口にした。
外野手に離脱者が相次ぐ中、欠かせない存在となっているのは間違いない。コーチ陣も「センターの(周東)佑京がいない中で、出ている以上はそのまま(ポジションを)取るぐらいの気持ちでやってほしいなと思います」と期待を寄せる。 成長曲線の途中にある26歳が見せた一瞬の輝きは、これからの大きな伸びしろを示していた。
(森大樹 / Daiki Mori)