小久保監督が明かした本音「葛藤は2週間くらい」
1-3で敗れた14日の西武戦後、首脳陣が本拠地を離れたのはゲームセットから1時間半ほどが過ぎたころだった。日々開かれるミーティング。この日の議題の1つは、初回無死満塁で空振り三振に倒れるなど、4打席ノーヒット3三振に終わった“不動の4番打者”についてだった。
翌15日の同戦。試合直前に発表された先発メンバ―に球場はどよめいた。7番に入ったのは山川穂高内野手。今季39試合目、FA移籍で昨季ホークスに加入してから182試合目にして、初めて4番から外れた。そんな主砲は6回に8号2ランを左翼席に叩き込み、意地を示した。代わって4番に入った中村晃外野手は先制の起点となる二塁打を放つなど、2安打と活躍。大胆な打順変更が功を奏した形となった。
「葛藤自体は2週間くらいはありましたね。主力がいない中で1人で、全てを背負ってやらないといけないという姿が強すぎたというのが我々の見解だったので。それを少し解放してあげようという思いでした」。試合後、そう口にしたのは小久保裕紀監督だった。快勝の前夜、首脳陣ミーティングで語られたこととは――。決断の舞台裏に迫った。
「監督が『(山川を)4番から外して6番くらいでいいんじゃないですか』と。僕の中では『いつ言われるのかな』と思っていました。前にもそういう話は出ていたし、(重責から)楽にした方がいいんじゃないかというのは思っていたので。そこから一晩考えて、7番で提案しました。あとは監督が決めることですから」
山川の矜持「7番だからやり返しましたではない」
そう説明したのは村上隆行打撃コーチだった。首脳陣ミーティングは毎日、練習前と試合後に全コーチが集まって行われている。チームとして決して軽いものではない指揮官の決断。昨季も山川が不振に苦しむ時期もあったが、4番から外すことはなかった。今季に入ってからも「打っても打たなくても4番なので」と全幅の信頼を置いていた。
小久保監督自身も、現役時代は王貞治監督(現球団会長)から辛抱強く4番で起用され続けたことで、大打者への道を一直線に歩んだ。その感謝は事あるごとに口にしている。だからこそ、山川を4番から外すという選択は、ことさらに重い意味があった。「自分が現役だったらと思うと、色々考えましたけど……」。指揮官の言葉は山川への気遣いが十分にこもっていた。
常に4番打者としてのプライドを口にする山川は試合後、静かに口を開いた。「ショックとか、そういう浅いレベルの感情ではなくて。打席で必要なのは確実に技術なので。きょうホームランを打ったからと言って、『7番だったから悔しくてやり返しました』ではないですね」。主砲は自らの心と自問自答しながら、常に戦っている。
小久保監督が山川に打順を伝えたのは、15日の昼だったという。「答えのないところに決断を下していくのが監督の仕事なので」。次戦以降の打順は「まだ決めていない」と口にした。首脳陣の“荒療治”はチームにどういう影響をもたらすのか。その答えがわかるのは、しばらく先になるだろう。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)