7回2失点→8回1失点も声かからず「悔しさは当然…」
2試合続けての好投も、29歳右腕は冷静に自らの立ち位置を見つめた。昨季は1度も1軍のマウンドに立つことができず、今季もここまで声がかからない現実――。それでも板東湧梧投手は悲観することなく、前だけを見据えている。
6日のウエスタン・広島戦(タマスタ筑後)。先発した板東は9安打を浴びながらも要所を締め、8回1失点と上々の投球を披露した。「低めへの投球を一番のテーマにしたんですけど、それがよかったです。意図通りの打ち取り方も多かったですし、ヒットはたくさん打たれましたけど、内容的には良かったかなと思います」。穏やかな表情で汗をぬぐった。
1軍は4月29日から5月7日にかけて9連戦が組まれており、板東が好投した6日はその真っただ中だった。9連戦で登板したのは先発ローテの5人と1軍帯同を続けていた東浜巨投手、大津亮介投手の計7人。ファームから呼ばれた投手がゼロという現状を右腕はどう捉えたのか――。「悔しさは当然ありますけど……」。続けたのは、ありのままの思いだった。
「自分でも客観的に見て、やっぱり呼ばれるレベルではないと思っているので。そこは気持ちの部分で難しいところはありますけど。ただ、前回登板からは球の質とかじゃなくて、総合的に抑える姿を見せるしかないなと思って、そっちに割り切ってやってるところではあるので」
前回登板となった4月29日の同・阪神戦でも9本の安打を打たれながら、7回2失点と粘り強くイニングを重ねた。一番の課題である出力の面では球速が140キロ前後と、まだまだ納得のいく数字ではないが、今季はここまで7試合に登板して2勝負けなし、防御率2.52と安定した投球を見せている。
右腕の変化「そう言ってもらえるのは嬉しい」
1軍から声はかからずとも、右腕には確かな手応えがある。筑後のファーム施設での練習中、すっきりとした表情でトレーニングに取り組み、ときには笑みが浮かぶこともある。変わったのはメンタルの部分だった。
「そう見えると言ってもらえるのは嬉しいです。自分自身、納得のいかないボールが多かったら、どうしても自分と戦ってしまっていたというか。相手よりも、さらに先を見てしまっていたところもあったんですけど。今はただ目の前のバッターをどう打ち取るか。それができているのかなと思います」
登板の1時間ほど前には屋内練習場で座禅を組み、数分間の瞑想で集中力を高めるルーティンをこなすなど、与えられた1試合1試合を無駄にしたくないとの思いが十分に伝わってくる。「今持ってる力をどう使って抑えていくかにフォーカスしています。その中で、もっとパフォーマンスを上げる努力はもちろん継続してやっているんですけど、その考え方が結果としてつながっているのはいいことだと思います」。
現状に満足することなく、かつ目を背けることもしない。全てを受け入れ、ただ目の前の一瞬に集中する。簡単なことではない。2年ぶりの1軍マウンドに上がる日がくることを信じて、板東は挑み続ける。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)