山川が力説していた「メジャートップレベル」
ファンからこれほどまでに厳しい言葉をかけられ、一方でこれほどまでに期待された選手もいなかっただろう。リチャード内野手が巨人へトレード移籍することが12日、発表された。規格外のパワーに、誰からも愛されるキャラクター。いつかはホークスの4番に――。その思いはチームメート、首脳陣、そして球団も一致したものだった。
「長打力という点ではメジャーでもトップレベルだと思います」。真面目な口調で語ったのは山川穂高内野手だった。プロ入り当初からリチャードを自主トレに招き入れ、間近でその才能を目の当たりにしてきた。だからこそ、今季開幕直後に不振で2軍落ちした愛弟子に、あえて厳しい言葉をかけることもあった。
「キャンプから見ていたら明らかに姿が変わったのはわかっているでしょうけど。それでも、やっぱりもう1個足りない、もう2個足りないのであれば、もっと練習しなきゃいけないですし。それは思考も含めてですね。どうすれば、この舞台で活躍できるか」
2021年にホークスのヘッドコーチとして加わり、2022年から2年間は2軍監督としてリチャードを見てきた小久保裕紀監督も「打撃面でいうことはない」と太鼓判を押していた。2年連続のリーグ優勝を狙う今季、開幕戦のスタメンにリチャードを抜擢したのも、何よりもの期待の表れだった。
昨年末の契約更改で伝えた思い…球団側の“真意”は
リチャードは昨年末、契約更改の場でフロントにありのままの思いを伝えた。その発言が“移籍志願”と捉えられ、様々な反応があった。一方で、球団側はリチャードを今季の戦力として考えていたこともまた事実だ。
昨オフ、チームは新たな外国人野手の獲得に動くことはなかった。支配下野手はジーター・ダウンズ内野手のみで今シーズンが開幕。いわゆる「打撃専門」の助っ人をチームに加えなかったのは明確な意図があった。
球団幹部が明かしたのはリチャードへの期待だった。現在はメジャーリーガーの給与が高騰し、これまで外国人選手獲得に出していた予算ではレベルの高い助っ人と契約することが難しくなっている。そんな中で、チームの戦力増強をどう考えるか。天秤にかけたのはリチャードの成長だった。
今季に関してはDH枠を実力未知数の新外国人選手で埋めるよりは、リチャードにチャンスを与えたい――。ここまで助っ人補強に動かなかったのは、球団が25歳の「覚醒」に期待をかけた、1つの“選択”だった。
「寂しいですけど、人生においてはこういう経験ができるのは本当にありがたいと思います。8年間頑張ってきましたけど、また一から始まるので。ルーキーに戻った感じで、最初から飛ばしていけるように頑張りたいです」。リチャードは球団からトレードを告げられた直後、こう口にした。誰もが認めた潜在能力を新天地で発揮してほしい。リチャードを見てきた多くの人の願いだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)