「今から行ってこい」…周東抹消で急遽昇格の舞台裏 笹川吉康が受け止めた指揮官の“ゲキ”

笹川吉康【写真:古川剛伊】
笹川吉康【写真:古川剛伊】

2軍戦で延長10回まで出場…「びっくりしました」

 選手会長離脱の“激震”は、本拠地から50キロほど離れた筑後のファーム施設にも影響を及ぼしていた。2軍戦の真っ最中に届いた、想像さえしていなかった突然の連絡――。慌ただしい現場の状況を追った。

 4月29日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。4試合ぶりのスタメン出場が予定されていた周東佑京内野手が急遽、出場選手登録を抹消された。チームリーダーの離脱を受け、白羽の矢が立ったのが笹川吉康外野手だった。同日、タマスタ筑後でのウエスタン・阪神戦に先発出場していた22歳。試合は同点のまま9回を終え、タイブレークに突入していた。

 ホークスの選手たちが延長10回を守り終えた直後、2軍マネジャーに1本の連絡があった。周東の抹消と笹川の昇格が決まったことを伝えるものだった。「いきなり『今から行ってこい』と言われて。どんな形でも1軍に上がれることはチャンス。嬉しかったのと同時にびっくりしましたね」。そう振り返ったのは笹川だった。

「10回の守備が終わって、『ちょっと来い』と言われて。ベンチ裏で『(周東が)抹消って連絡があったから、今から行ってこい』と」。バタバタと荷物をまとめた笹川は車に飛び乗った。車中では「とりあえず(試合開始の午後)6時に間に合わせようということしか考えていなかったです」。気持ちをまとめる時間もないまま、午後5時50分ごろに球場に到着した。

「マネジャーからいきなり連絡がきて、本当にびっくりしました。こっちも全く想像していなかったので。(午後4時の)公示ギリギリのタイミングだったし、当然、1軍自体もバタバタしたとは思うんですけど。もう『頑張ってこい』だけですよね」。シンプルな言葉で笹川を送り出したのは松山秀明2軍監督だった。

 同日の2軍戦では今季4号ソロを含む2安打を放っていた笹川。ここまで打率.238、4本塁打、17打点の数字に「今の状態は良くはないです」と率直に認める、一方で、「調子がいいから呼ばれたというわけでもないと思うので。1軍に上がったからにはチャンスなので。しっかりとやりたい」と力を込めた。

緊急昇格も求められるのは結果…「言い訳はできない」

 笹川を送り出した松山監督も1軍の危機的状況を認めつつ、笹川にとって大きなチャンスであることを強調した。「彼にすればどんな形であろうが、やっぱり1軍に行けるのはプラスなので。ここでチャンスを掴めるか、掴めないか。そこはめちゃくちゃ大事ですよ」

 チームは周東だけでなく柳田悠岐外野手、近藤健介外野手、正木智也外野手といった主力外野手が相次いで故障で離脱を余儀なくされている。4月12日には山本恵大外野手が支配下登録され、即1軍に昇格したが、11打席ノーヒットと結果を残せず、26日に登録抹消となった。

 松山監督が指摘するのは“よーいドン”の重要性だ。「柳町(達外野手)はギリギリのところで挽回したわけですから。ずっと試合に出られない中でぽんと出て、いい場面でホームラン、ヒットを打って。あれで蘇ったので。ああいう底力がある。1軍に行って、1発目にドンといけるのか。山本はできなかった。そこでいけるやつと、いけないやつの差は出ますからね」

 本調子でなくとも、笹川に求められるのは結果だ。「小久保(裕紀)監督はある程度の打席数とチャンスは与えられるので。そういう意味では言い訳はできない。チャンスはもらえているわけですから」。急遽巡ってきた好機を生かせるか――。松山監督の言葉には期待がこもっていた。

 小久保監督は4月中旬、報道陣に対して「『吉康は何してんねん』という話ですけどね」と発言し、辛口のエールを贈っていた。報道を目にしたという笹川は「その通りだと思いました」と指揮官の思いを受け止めた上で、「とにかく打ちたいです」と拳を握った。選手会長の離脱という大ピンチをどう乗り切るか。真の意味でホークスの力が試される。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)