自信が粉々になった2年間 正捕手へ最大のチャンスも…渡邉陸が直面する”不安”

渡邉陸【写真:栗木一考】
渡邉陸【写真:栗木一考】

ド派手なデビュー飾った2022年…変わった価値観

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。渡邉陸捕手の第2回、テーマは「3年間で変わった価値観と危機感」についてです。2022年、プロ初スタメンで2打席連続本塁打を放ち、ド派手なデビューを飾ってから3年。プロ野球人生で最大のチャンスを迎えている24歳が口にした“不安”とは――。赤裸々に語ってもらいました。

 2022年5月28日の広島戦(みずほPayPayドーム)。プロ4年目を迎えた渡邉の人生が大きく変わった日だった。第1打席でプロ初安打となる3ランを放つと、続く打席でも2号ソロを連発。3安打5打点と衝撃的な活躍を見せた。この年は20試合に出場し、うちスタメンマスクは7試合。大きなステップアップとなった1年だった。

「怖いもの知らずというか、『失うものは何もない』という気持ちでやっていたので。試合に出始めで、何をしてもプラスだと思ってましたね」

 当時は22歳シーズン。近い将来、強打の捕手としてチームの中心選手となる――。ホークスファンは明るい未来を信じて疑わなかったが、現実は違った。

「2022年である程度自信が付いたこともあって、2023年に関してはより大事な一年と思っていたんですけど……。バッティングのところで『なんか違うな』っていうのが1年間ずっと続いて、ズルズルいってしまった。2024年は色々と変えようっていうことでアメリカ(ドライブライン)にも行きましたけど。でも怪我をして、またズルズルと……。『なんか違うな』っていうのが2年続いたので」

渡邉陸【写真:冨田成美】
渡邉陸【写真:冨田成美】

確かな存在感示すも…“チャンスはピンチ”

 2023、2024年はともに1軍出場はなし。自らへの悔しさやもどかしさと同時に、将来への不安が頭をよぎった。「全然打てなくて。『どうなるのかな』と思いながら。でもやるしかないなって」。

 迎えた2025年。長年ホークスの正捕手として君臨してきた甲斐拓也捕手が巨人にFA移籍したことで巡ってきたチャンス。“失うものは何もない”との心構えはがらりと変わった。

「3年前とは全然違いますね。あの時も自分なりの考えはあったんでしょうけど、今思えばキャッチャーとしての引き出しも全然なかったので。ここ何年かでより細かいデータも増えてきていますし、僕からすれば全然違います」

 開幕1軍入りを果たし、ここまで捕手陣では海野隆司捕手に次ぐ10試合に出場するなど、確かな存在感は示している。一方で、開幕直前には2軍降格も経験。渡邉は危機感を隠そうとはしない。

「今年もダメなら……という思いは間違いなくあります。2年間全く結果を出せなかったし、今年は本当に大事なシーズンというのは分かっています。今はそんなことは思っていないですけど。とにかく1軍で結果を出すことしか考えていないですね」

 野球界には“ピンチはチャンス”との格言もあるが、逆に“チャンスはピンチ”も然りだ。それが分かっているからこそ、渡邉は1日1日を決して無駄にはしない。3年前とは比較にならないほどたくましくなった24歳が勝負をかける。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)