覆す“序列”…「1か月間だけでも勝つ」
自分だけの城を築くために葛藤してきた。試練を乗り越えて掴んだ1軍の舞台で、廣瀬隆太内野手が躍動している。「A組に入れるものだと思っていた」という春季キャンプではB組からのスタートとなり、その道のりは決して平坦なものではなかった。オープン戦では1軍での出場はあったが、小久保裕紀監督から告げられたのは「セカンドでは3番手」という厳しい現実だった。
「『侍ジャパンに選ばれていたし、そういう複雑な気持ちはあるだろうけど、その中で頑張るしかないんだよ』って言われました。でもちゃんと冷静に考えたら自分は3番手だなと思って。そこは受け入れるしかないと思えました」
3月に行われた侍ジャパン壮行試合のメンバーにも選出されていたが、チーム内での評価は厳しいもの。廣瀬の胸中を察したうえで指揮官は伝えたが、その言葉は重く響いた。開幕1軍は逃したものの、5日の西武戦から昇格。以降はスタメン出場も重ねている。3番手の通告を真正面から受け止め、自身を見つめ直したことで、求められるものの高さを知った。「それぐらいじゃないと、ひっくり返せないですからね」。抱いてきた葛藤を率直に語った。
「『野球作ったやつだれだ!』って。ロッカーで大きな声を出した時もありました。『うらー!』みたいなのは全然ありました」
2軍での日々は数字との闘いだった。求める結果が出ない時には、感情を抑えきれないこともあった。「だって、こんなに毎日数字を求められる仕事はないじゃないですか。言ってみれば、毎日入学試験をやっているようなもんですよ。毎日点数取らないといけないんで」。1軍で活躍するためにはファームで圧倒的な成績を残さなければならない。廣瀬はそのことを強く心に刻んでいた。
同期が証言…「あいつもイライラするんですね」
同期入団の岩井俊介投手も「初めて見ましたよ。あいつもイライラするんですね。めちゃくちゃ暴れていました。悔しさ出してます」と証言する。2軍の試合が終わった後に、感情を爆発させる廣瀬の姿に驚きを隠せなかったという。
「4打数4安打、4打数3安打を打たなきゃいけない。4打数2安打じゃダメです」。高い目標設定は、現状を打破するための渇望の表れだった。「そのぐらい打たないとやっぱりひっくり返せないですから」。
しかし、廣瀬が2軍で結果を残し続ける中で状況は変わっていく。栗原陵矢内野手が右脇腹の負傷で離脱していたチーム状況もあった。「徐々にバッティングも良くなってきて、2軍で結果を残し始めたら、サードでも1軍に呼ばれてっていう感じでここまで来ました」。2日と3日の2軍戦に三塁手として出場すると、すぐに1軍から声がかかった。
栗原の復帰が近づいていた時でも「今は自信があります」と1軍に残り続ける手応えを口にしていた。17日に栗原が出場選手登録されると、入れ替わりで抹消されたのはジーター・ダウンズ内野手だった。廣瀬はこの日、二塁手でスタメン出場。「1か月間だけでも牧原(大成内野手)さんに勝つっていうのは段階的には大事です」。廣瀬が自身の力で“序列”を覆しつつあることを示している。
指揮官からの「3番手」の言葉を受け止めたからこそ今の廣瀬がある。抑えきれないほどの悔しさも成長の糧にしてきた。背番号33が見据えるのは、レギュラーの座、チームの勝利だけだ。その背中は確実に逞しさを増している。
(飯田航平 / Kohei Iida)