「普通じゃ何も変われない」2年続けて早出練習“皆勤” 石塚綜一郎が示した覚悟

春季キャンプで汗を流す石塚綜一郎【写真:冨田成美】
春季キャンプで汗を流す石塚綜一郎【写真:冨田成美】

起床は5時半、球場を出るのは最終バス…「きつい日もありましたけど」

 プロ6年目で初めて入ったA組。1度も“降格”することなく、春季キャンプを完走したのが石塚綜一郎捕手だった。ただ走り切っただけではない。全ての練習日でアーリーワークに志願参加し、誰よりもグラウンドで汗を流した。23歳が過ごした1か月余りの日々を振り返る。

「きつい日もありましたけど、続けることがやっぱり大切だと思って。キャンプ中しかできないことなので」。起床は午前5時半。全体練習の集合前からキャンプ地に到着すると、ただ無心でバットを振り込む。午後6時発の最終バスに乗り込んで宿舎へ戻ると、さっとシャワーを浴びて夕食を取る。その後1時間ほどストレッチすると、もう9時過ぎになる。その日にコーチらに言われたことをノートにまとめ、10時には布団に入る。とにかくストイックに日々を送ってきた。

 去年から続けているアーリーワークの“皆勤”。「キャンプってそういうものだと思っているので」と、いたって冷静な口ぶりだ。昨年7月に支配下登録を勝ち取り、2桁の背番号で迎えた今春キャンプで初のA組入り。“頑張り時”であることは明白だが、実際に行動に移すのは簡単なことではない。石塚に覚悟を聞いた。

「これまでプロ野球の世界でやってきて、普通にやってるだけじゃ何も変われないなって。去年もアーリーワークに出られる日は全部出たんですけど、その前の年(4年目)もやろうとしたんですよ。でも続けられなかった。楽な方にいっちゃう時があったので。『悔いが残らないくらい、何かをやり切ろう』と決めて。今年は去年よりもやらなくちゃいけないので。支配下に上がっても、結果を残さなくちゃ意味がないですから」

 苦しいことから目を背け、楽なことを選びがちなのは人間の性だ。これだけ自身を追い込んでいる石塚であっても「1年間終わってみると、絶対に後悔することはありますね」と明かす。「ただ練習するだけで、中身がなかったなとか。そこに早く気付いていれば、もっといい成績を残せていたかもしれない。だからこそ、今から満足できるようにやるしかない。キャンプは全部きつい方を選んでいこうと」。心の灯を消すことなく、走り続けた。

 その姿勢は当然、首脳陣の目に入っている。それでも石塚は意に介することなく言い切った。「アピールがメインではないですね。自分がやり切ろうというのが一番なので。評価してくれるのは第三者だし、僕が『評価してください』と思うことはないです。見せられるものを見せて、あとは評価してくださいって。そういう世界じゃないですか。媚びを売ってやるとかじゃないし。練習しなくても結果を残せばいい世界なので」。

 捕手登録ではあるが、今キャンプでは一塁をメインに過ごした。同じポジションには絶対的なレギュラーの山川穂高内野手をはじめ、中村晃外野手やリチャード内野手もいる。さらに小久保裕紀監督が「柳田(悠岐外野手)はDHを中心にと考えているけど、レフトでこれという選手が出てこなかったら(柳田が)レフトということもありますよね」と言及したように、ポジションを超えて勝たなければいけないライバルは多い。

 サバイバルの渦中にいる石塚だが、心は静かなままだ。「他の選手が打てなくても、僕も打てなかったら意味がないので。あくまで人は人。気にしても仕方がないです」。よく耳にする「できることをやる」を行動で表し続けた23歳。信じるものは、誰よりも流した汗だ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)