エースの“風格”を感じた5分間だった。「ブルペンでボールを受けたのも初めてでしたし、しっかり話したこともなかったので。とにかく楽しかったです」。満面の笑みで口にしたのは、有原航平投手のブルペン投球でマスクをかぶった谷川原健太捕手だった。
第5クール最終日の2月24日、右腕の1球1球をかみしめるように受け止めた谷川原。投球後には時折笑みを浮かべながら、約5分間意見交換した。「有原さんはマウンドに立つと結構オーラがあって、怖い感じなんですけど。話すと優しいので自然と笑顔が出ました。すごくメリハリがある方だなと感じましたね」。
昨季は有原が登板した26試合全てでスタメンマスクをかぶった甲斐拓也捕手が巨人にFA移籍し、正捕手争いが今キャンプ最大の注目点となっている。その座を狙う谷川原にとって、右腕との信頼関係を築くことは必要不可欠だ。エースと初めて交わした会話の中で感じたのは、細やかな“こだわりと優しさ”だった。
「『青いミットが投げやすい』って言われました。黒や赤より青が投げやすいからって。僕も今年に向けて作ったんですけど、『完璧にこれならいけるっていう状態になってから使ってくれればいいから』みたいな感じでしたね。ガチガチなのに使ってくれとは言わないからって」
まず感じたのは投手ならではの繊細な感覚だ。伝えられたのは、ミットの色によって投げやすさが変わること。多彩な変化球をコースに投げ分ける有原航平投手にとって、コントロールは生命線。妥協することなく、後輩捕手に要望を伝えた。一方で無理強いはしない。キャッチャーミットは試合で使える程度に柔らかくなるまで時間がかかる。谷川原の事情をしっかりと汲む姿勢を見せた。
エースのボールから伝わるものも多かった。「やっぱり球が強いですし、変化球もよりベースの近くで曲がっているなと感じましたね。さすが勝つピッチャーだなと思いました」。昨季14勝を挙げ、最多勝に輝いた右腕とのブルペン前にはシミュレーションをしていたが、「想像以上のコントロールでした」と目を丸くした。
どのボールも一級品の有原は、捕手の力量を映す“鏡”にもなる。「球速が150キロを超えるのでパワーで押すこともできると思いますけど、変化球の精度も素晴らしいので。その分、僕が間違えちゃいけないなとは思いますね」。マスクをかぶる喜びだけでなく、相当のプレッシャーもかかってくる。
それでも尻込みしている場合ではないことは本人も重々承知している。「当然キャッチャーとして引っ張っていきたいですし、そういう思いを持ちながら話をさせていただきました」。正捕手にのしかかる重責から目を背けることはない。
「もちろん開幕戦でマスクを被りたいですし、ずっと有原さんと組みたいと思っています」。エースと盤石の関係を築くことは、正捕手としての第一歩となる。多くのライバルとしのぎを削りつつ、信頼を勝ち取っていく。