柳田悠岐から「背番号9ほしい?」 笹川吉康に伝えた“後継者”の話…44番を背負う“宿命”

ソフトバンク・柳田悠岐【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・柳田悠岐【写真:荒川祐史】

柳田の復帰戦となった20日の2軍戦 ベンチで交わされていた「衝撃の会話」

 背番号44のユニホームを身にまとった時から、ずっと抱いていた憧れ。「いつかは自分も——」。その思いは、師匠にしっかりと伝わっていた。

 ベンチの中では師弟の“熱い会話”が交わされていた。憧れの人と並んで過ごす、貴重な一戦に充実感を滲ませていたのは笹川吉康外野手。胸を熱くした会話を明かしてくれた。

 右太もも裏の負傷で戦列を離れていた柳田悠岐外野手の復帰戦となった20日のウエスタン・リーグくふうハヤテ戦(タマスタ筑後)。試合前のセカンドアップ後、笹川はベンチで柳田の隣に座っていた。普段と変わらずたわいもない話をしていると、いきなり衝撃の一言を掛けられた。

「背番号9、ほしい?」

 笹川の目は輝いていた。「実は前にもちょっと話したことがあって。僕、まだまだそんなことを言える立場じゃないですけど、やっぱギーさんみたいに活躍して、ゆくゆくは9番を継ぎたいっていう気持ちはあるんです。そういう話をしたら、『俺もやっぱり9番をほしいって思う人に付けてほしいから頑張れ』って」と激励されたという。「ギーさんは結構ふざけた感じで、真面目な雰囲気ではなかったですけどね」と笑ったが、心の中は熱いものでいっぱいになった。

 柳田の偉大さを心底感じているからこそ、軽々しくは受け止められない話だった。「でも、僕がこんなこと言ったらアレじゃないですか? まだ1軍すら(ほとんど)いってないのに、ちょっと生意気みたいな……。まだ(背番号9がほしいと)言えるほどの成績を残していないんで」と、自身の立場をわきまえて謙遜した。それでも、憧れの人への思いは強い。「それはもう、つけたいですよ。44をつけたら9もつけたいですよね。頑張るしかない。それに見合う成績を残さないと」。

 柳田が入団した2011年から4年間つけてきた背番号「44」を受け継いだ笹川。現1軍監督の小久保裕紀から柳田に引き継がれた「9番」は、強打者というだけでなく、チームの中心選手としての証だ。自主トレで弟子入りする師匠から伝えられた言葉に、身が引き締まった。

ソフトバンク・柳田悠岐(左)と笹川吉康【写真:長濱幸治】
ソフトバンク・柳田悠岐(左)と笹川吉康【写真:長濱幸治】

 20日の2軍戦で柳田は「2番・DH」で2打席に立った。笹川の打順はその後ろの「3番」。打順の並びにも喜びを感じていた22歳は、ある人物への感謝を口にした。「明石(健志2軍打撃)コーチにも『ネクスト(バッターズサークル)からちゃんとギーさんを見とけよ』って言われていました。多分、コーチたちが勉強できるようにって打順を組んでくれたと思うので」。

 実際、明石コーチにその真意を問うと、「それしかないでしょ」とキッパリ言い切った。「同じようなポテンシャルを持ち合わせて、同じような体格をしていて、吉康自体もよくなってきているんで。ギータがこっち(筑後)にいることなんて、怪我をしない限りはないことなんで」と頷いた。笹川に柳田の後ろを打たせた狙いも明確だった。

「選手はネクストでピッチャーの(投球に合わせて)タイミングを取る。ギータが打席に立った時に、打ちにいったときのタイミングの取り方とか。『俺はもう足を(地面に)ついてんのに、ギーさんまだ上げてるな』とか。そういうのってベンチからじゃなくて、実際にネクストで一緒にタイミングを取ってみた方が、僕はイメージがつきやすいのかなと思います」と説明する。本来であれば、5、6番に入れる予定だった笹川の打順を意図的に柳田の後ろに持ってきたのは明石コーチの“親心”でもあった。

 ネクストバッターズサークルから見た景色の感想を聞くと、笹川は「ちょっとユニホームが気になったっすね」とおどけてみせた。足首が絞られたデザインの“スキニータイプ”のユニホームパンツを着用していた柳田。「みんなに『どう? どう?』ってめっちゃ聞いて回っていました。そしたらみんな、『キモいっす』って。『明日からやめるわー。戻すわー』って(柳田が)言っていて。僕も『ちょっと変ですね。前の方がいいです』って言いました。上の袖も短くして、ぴちっとして(周東)佑京さんみたいでした」。思わぬ部分も気になってしまったが、師匠の姿をまじまじと見つめた一戦はとても貴重な時間だった。

 笹川は4年目の今季、初めて1軍に昇格した。しかし、自身の誕生日でもある5月31日に柳田が怪我をし、1軍での“初共演”は叶わなかった。2人がともに試合に出場するのは、2年前の9月にあった2軍戦以来、2回目。その時は、師匠の目の前で特大アーチを放った笹川。満面の笑みでハイタッチしてくれたことは深く記憶に刻まれている。あれから自身も大きく成長したからこそ、より一層、「背番号9」の偉大さを感じていた。

 20日の試合で柳田が打席に立ったのは2度だけ。師匠のプレーを見られる時間は限られたものだったが、「ギーさんめっちゃ声出してて。なんなら1番出しているんじゃないかっていうぐらい出して、ベンチを盛り上げてくれていたんで。それにみんな刺激を受けて、声を出さなきゃっていうか。いつもよりベンチは活気がありました」。

 肌で感じた主砲の圧倒的な存在感。チームにとって欠かせない存在であることを改めて認識した。いつかは「背番号9」が似合う選手になりたい——。笹川にとって決意を強くした1日になった。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)