1軍ではノーアーチも2軍では「5年連続本塁打王」が現実味
続く2軍暮らし――。試合でもスタメンを外れる日々。プロ7年目を迎えているリチャード内野手の現在地は、背水の陣ともいえる苦しい状況だ。いつも元気にチームを盛り上げる豪快で明るい大砲も、心中穏やかとはいえないシーズンを過ごしている。
今季、1軍での出場は15試合にとどまり、31打数7安打の打率.226、1打点。本塁打はゼロと、本来の力を出し切れていない。現状を尋ねると、25歳は冷静に自己分析した。
「2軍でも打てていなかったんで。最近はスタメンですけど、それまでは代打とか、スタメンでも7番、8番が多かったんで。『もう終わりか、俺』とか思いながら。でも、置かれた立場でやるしかないよな、って気持ちもありながら……。いろんな思いがありましたよ」
レギュラーシーズンも残すところ1か月を切った。焦りも不安も当然抱いているが、「自分の中では、試合が始まったら“元気スイッチ”を入れてるんで。(気持ちが)マイナスにならないように」と前を向き、自身の心もベンチも鼓舞して戦ってきた。
今季はほとんどの時間を2軍で過ごしているが、ここ最近は良い兆しも見えてきた。8月28日のオリックス戦から3試合連続アーチを放つなど、9月4日の同戦までの5試合で4本塁打と量産。リチャードは“本塁打特化型”に振り切ったことが好転の要因ではないかと口にする。
「僕は正直、打率キャラじゃない。とは言いつつも、2割5分はほしい。でも、“ホームラン特化型”でいきます」と覚悟を決めた。「諦めました、三振しないことを。三振は“ハッピーセット”です、ホームランの」。リチャードらしい“迷言”のようにも聞こえるが、三振を恐れすぎて小さくまとまるのは本体の姿ではないだろう。「(三振しないようにと)よぎったら、余計に三振する。打てるものも打てなくなるんで。だったら思いっきり三振する覚悟でホームランを打った方がいいです」と振り切った考えにシフトした結果、状態は上向いてきた。
本塁打へのこだわりは強い。今季はウエスタン・リーグでトップの14本塁打を放ち、史上初の5年連続本塁打王も見えている。もちろん、2軍にいる時間が長いことの表れでもあるため、決して“名誉”なことではない。それでも、今のリチャードには置かれた立場で結果を残し続けるしかないのだ。
今年は917グラムのバットを使用している。昨季より30~40グラム重く、苦戦もしてきた。ただ、リチャードは新たな相棒と“心中”する覚悟で今季に挑んでいる。「やっぱり僕って周りの人よりデカいし重いし、同じバットでいいんかなっていうところから始まって。一芸に秀でるバッターになりたいから。重いバットだったらシンプルに飛ぶし、昔の人は重いのを使っていたし。俺にも振れるだろうっていう感じで始まりました」と経緯を明かす。
今季が7年目。このままではいけないことは本人が一番よく分かっているはずだ。「一芸に秀でる」ことの大切さは、育成出身選手が活躍するソフトバンクではよく説かれてきた。リチャードも、それを期待されて高卒で育成指名を受けたわけだ。当然、ある程度の数字を残さなければならないことも重々承知。それでも、プロへの道を切り開いた持ち味は忘れるべきではないだろう。今一度、自身の生きる道をしっかりと見つめた上で、高みを目指して挑戦し続けている。
「盟友」との別れ…元助っ人との再会も刺激に
様々な思いを抱えて過ごしていたリチャードにとって大きな出来事があった。「大樹を失った月は、ちょっとしんどかったですね」。7月5日、ソフトバンクと西武の交換トレードが成立し、野村大樹内野手が西武へ移籍した。野村大は1学年下で、同じ右打ちの内野手としてもライバル関係にあった。
共に過ごす時間も長く、時には“口喧嘩”になることもあったという。「喧嘩するほど仲がいいとは、あいつのことです」とリチャードは寂しそうに頷いた。野村大が移籍した日から、今も「LINE」のやり取りは続いているという。「3日に1回ぐらいのペースで連絡し合ってるんで、全然話が進まないです。『調子どうっすか?』『普通。お前は?』みたいな。これが3日置きくらいにずっと続いてる。あいつが移籍した日から」と笑う。
突然の別れは、寂しくもあり、置かれた立場を改めて感じる出来事でもあっただろう。それでも、野村大が移籍先ですぐに1軍でスタメン出場し、本塁打を放つなど躍動する姿にはやはり刺激を受けた。「ちょっと嫉妬の方が多かったです。『俺もホームラン打ちてー』って」とライバル心も覗かせた。“盟友”に負けじと、リチャードもさらに奮い立った。
9月3日の2軍戦には、元チームメイトで仲も良かったアルフレド・デスパイネ外野手が観戦に訪れた。挨拶に来た元助っ人とは寮の食堂で「めちゃめちゃ喋った」といい、「キューバで20本ホームラン打ってるらしいですよ。すげえな、やっぱ。70試合くらいで20本ですよね。相当すごいですね。ホームランに全振りした人って感じ。(デスパイネは)リストってしか言わないけど、あれも一芸じゃないですかね」。キューバリーグで58試合に出場して打率.378、20本塁打の成績を収めたデスパイネ。38歳になっても本塁打を量産する大砲との会話も、リチャードの励みになった。
覚悟を持った取り組みと、背水の思いで挑んできた。リチャードにしかない魅力を武器に、結果を求めて食らいついてみせる。これまでのモヤモヤを晴らすように、1軍で豪快なアーチを描いてほしい。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)