代打を送られたことより川村友斗が悔んだワンプレー 「チームに一番求められているところ」

柳町の逆転打にベンチを飛び出して喜びをあらわにしたソフトバンク・川村友斗【写真:栗木一考】
柳町の逆転打にベンチを飛び出して喜びをあらわにしたソフトバンク・川村友斗【写真:栗木一考】

1点追う8回2死満塁…川村の代打・柳町が値千金の逆転3点三塁打を放った

 打球が一塁線を破ると、ベンチから一気にナインが飛び出した。1人、2人、3人とホームに返ってくる。自身も三塁に到達すると、両こぶしを高々と突き上げて雄叫びを挙げた。1点ビハインドの8回2死満塁で柳町達外野手が放った走者一掃の逆転三塁打。3連敗中だったチームを覆っていた重い空気を一振りで吹き飛ばした。

「先輩たちがつないでくれたので。このチャンスを生かすしかない。打った瞬間はファウルだと思いましたけど、『頼む、残ってくれ』と。チームも苦しい状況だったので、その中で打てたのは本当に嬉しかったですね」

 劇的な一打の直前、中村晃外野手の打席をネクストバッターズサークルから見守っていたのが川村友斗外野手だった。中村晃が四球を選んで2死満塁となり、小久保裕紀監督は代打柳町を告げた。柳町の逆転打にベンチを飛び出して喜びをあらわにした川村の胸中はいかなるものだったのか――。

「正直、代打を送られたときは悔しい気持ちはすごくありました。前の打席(6回2死一、三塁)ではチャンスで打てなかったんで(結果は二ゴロ)。自分に(8回の打席が)回ってきたら、打つしかない場面だったので。気合はめちゃくちゃ入ってました」

代打で出場した柳町達は逆転打を放った【写真:栗木一考】
代打で出場した柳町達は逆転打を放った【写真:栗木一考】

 野球選手として当然、抱くべき感情を口にした川村。一方で、8回の攻撃が終わり、ベンチに戻ってきた柳町に対して、満面の笑みでハイタッチを交わした。「すごすぎます!」。先輩に言葉をかけた瞬間には、自身への悔しさはかけらもなかった。

「ベンチに下がったら自分1人の感情を引きずってもダメなので。応援するだけでしたし、めちゃくちゃうれしかった。『シャーっ』って声が出ましたね。個人的なことよりも、チームが勝てたことが全てです」。

 自らのバットで取り返したい――。そう感じたシーンはほかにもあった。途中出場で右翼の守備に就いた直後の6回1死二、三塁。自身のもとに来た打球をキャッチし、すぐさまバックホームしたが、送球がわずかに逸れて三塁走者にタッチアップでの生還を許した。

 タイミング的には微妙だっただけに、送球が正確であればアウトにできる可能性があったプレーだった。「あそこが今日の試合で一番悔しかった」。そう口にするのは、自身の役割をしっかりと把握しているからだ。「今、チームに一番求められているのは走塁と守備だと思うので。そこをしっかりやらないといけなかった」

 今シーズン開幕前に支配下登録を勝ち取った24歳。6月中旬に一時期、2軍降格となったが、再び1軍の舞台に戻ってきた。「ここからしっかり試合に出られるように。今日みたいな送球のそれとかないようにやっていけたら」。逆転勝利の余韻に浸ることなく、まっすぐに前を見据えた。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)