先発希望を伝えた上で中継ぎ継続が決定 松本裕樹が吐露した“本音”と首脳陣の思惑

ソフトバンク・松本裕樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・松本裕樹【写真:荒川祐史】

「中継ぎで結果を出せたから、先発でも結果が出るかといったらそうじゃない」

 早々に来季の役割は固まった。ソフトバンクの松本裕樹投手は4年ぶりのリーグ優勝を目指す2024年シーズンもリリーフとして迎えることになった。既に首脳陣としての方針は伝えられており、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は8日に報道陣の前でも、藤井皓哉投手と共に松本を中継ぎに置くことを明言した。

 松本裕はこれまでも先発への思いを抱えていた。そんな中で、早々に中継ぎ起用を決めた意図を倉野コーチはこう明かす。

「松本は入ってきた時からよく知っている。もともと先発候補だったんで、いずれはね。中継ぎでやっと地位を確立できつつあるのに、それをまた実績のない先発に回すというより、確立しつつあるものを本物にしてしまってから次のステップに行った方が、彼の野球人生にとってもいいと思って。もちろん、チームのピースとして考えた場合に、そっちの方が、間違いなく大きな戦力になると思っているので。後ろ(リリーフ)ってすごく大事なので。松本クラスの選手が新たに出てくるっていうのはなかなかね」

 現在のチーム状況と松本裕の野球人生と両方を鑑みた上での決断だという倉野コーチ。この首脳陣の考えを、松本裕自身はどう受け止めたのだろうか。「特に驚きはなかったですね。だろうな、と」。驚くこともなく、すんなりと理解した。一方で、自身の思いもキッチリと「先発としてチャレンジしたい、挑戦したいっていう気持ちがあるというのは伝えてはいます」。お互いの思いを伝え合った上での、リリーフ専念という結論だった。

 先発に対しても冷静に見ている。「別に先発で結果を残しているわけじゃないんで、したいからできるって思ってもいないです。中継ぎでの結果はある程度は出せたんですけど、中継ぎで結果を出せたから、先発でも結果が出るかと言ったらそうじゃない。そこら辺の不安もあるから、自分としても“挑戦”っていう部分になる」。先発はあくまでも願望。簡単に掴めるものではないというのは松本裕自身が最も理解している。

 倉野コーチも松本裕の思いを受け止めている。「再来年、3年後みたいなところは、また来年の成績を見てっていう風になるとは思う。(今、先発に挑戦したら)なんか中途半端じゃないですか。やっと中継ぎとして一流の道を歩み始めたのに、ここでまた実績のない先発に行くっていうのは、ちょっともったいないなと思って。中継ぎだって立派な職業ですよ、当たり前ですけど」。まず極めるべきはリリーフとして一流になること。それが倉野コーチが描く“理想”だという。

「今、チームに求められているところはどこなのかっていうところが、野球選手にとっては1番大事だと思うんです。自分の理想はあるけれど、チームとして1番求められてるところっていうのが、僕は大事だと思う」。本人の希望はあれど、選手はチームに求められてこそ価値に繋がる。その視点で見れば、松本裕はリリーフとしてチームに求められているのだ。

「やっぱり、あのストレートとフォークボールは魅力ですよね。じゃあ、先発になった時にそのスタイルが維持できるのかどうかっていうところも、今後もし先発に何年後かに行くことがあったとしたら、それが課題になると思う。でも、あの真っ直ぐの勢いとフォーク、スプリットというのは、かなり高いレベルにあると思うので、それは魅力ですね」

 倉野コーチは松本裕にあるリリーフとしての能力の高さをこう表現する。信頼があるからこそ、まずは今築いている“絶対的なポジション”を確固たるものにして欲しい。松本裕の思いに寄り添いながら、何が選手にとって1番いいかも考えている倉野コーチ。松本裕自身は託された信頼に応えるべく、来季に向けて準備を進めていく。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)