ナイター後に最後までファンサービス…正木智也が1軍で果たしたいファンへの“恩返し”

ソフトバンク・正木智也【写真:米多祐樹】
ソフトバンク・正木智也【写真:米多祐樹】

「1軍で試合に出て活躍して恩返しが一番いいと思うんですけど…」

 5月31日のことだ。ウエスタン・リーグの広島戦後、タマスタ筑後からクラブハウスまでの道の脇には多くのファンが選手たちを待っていた。そのファン1人1人に対して、丁寧にペンを走らせ、写真に収まり、最後の最後までファンサービスを行っていたのが正木智也外野手だった。

 プロ野球選手として、ファンサービスは大切なことだ。ただ、1試合を戦い終えた後で疲れも当然ある。しかも、この翌日はデーゲーム。ほとんどの選手がコンディションを優先して急ぎ足でクラブハウスへと引き上げていく中、約30分、求めるファン全員に対応する姿はとても心温まる光景だった。

 疲れている中でもファンとの触れ合いを続けたのは、なぜか。正木にその思いを聞くと、こう答えが返ってきた。

「ファンの皆さんは毎日来てくれて、練習とかあって(サインを)書けない日もあるので、書ける日はなるべく書きたいなと。やっぱり1軍で試合に出て活躍して、ファンに恩返しっていうのが一番いいと思うんですけど、まだそれができる状態じゃないので。まずは2軍でしっかり取り組んでやるっていうのは大事なのかなと思いますし、野球で返す以外にも、こうやってサインを書いたり、写真を撮って喜んでもらえたらいいなと思ったので。そういうのも大事にしたいなと」

 正木の素直な思いだ。開幕スタメンを勝ち取り、大きな期待を背負って始まった今季。しかし、開幕から無安打が続き、結局、18打席無安打のまま、4月19日に2軍降格となった。ファームに来た後もなかなか思うような結果が出ず、悩んでいた。「まだそれができる状態じゃないので」という言葉からも、まだまだ、バッティング面における模索が続いていることが分かる。

 少しずつ状態は上向いている。この試合の第1打席には先制点につながる二塁打を放っていた。「最近、バッティングの状態がすごく上がってきたというか、バッティング練習でもいい感じになってきて、それをまた継続していきたいです。今日の内容も良かったと思います」。ようやく手応えを感じてきたようだ。

「1軍で最初打てなくて、その原因をずっと考えながら2軍でやってきたんですけど、なかなかその原因は分からず……。いや、悪いところはわかっているんですけど、それを直しても、また違う悪いところが出てきたりとか。ヒットを打っても、なんかちょっと違う感覚というか、全然状態がいい時のヒットじゃないなっていうのは感じていて。それが最近、いい形のいい感覚のヒットがちょっとずつですけど出てきました」

 正木の言う最初の“原因”とは「ヘッドが寝すぎていた」こと。降格してきてすぐ、小久保裕紀2軍監督と究明したことだった。そこの改善に取り組むと「それが治ったら、右足(軸足)の使い方が……。止めすぎというか、最後回らないで、ちょっと残し気味になってしまっていて」と、次は軸足に課題が出てきた。

 最近では小久保2軍監督に「バットの向きがレフト方向側に向いている」と指摘を受けた。正木は「バットの軌道がセンター方向に向いていかないといけないんですけど、それが全部引っ張り方向に流れていて。そのせいで外の球が遠く見えちゃったりしています」と説明する。打撃練習では、逆方向を意識したスイングから始めるなど修正に励んでいた。

 そんな正木は「特例2023」の対象として登録抹消となったリチャード内野手に代わって、約1か月半ぶりに1軍へと戻ってきた。まだバッティングは復調途上だが、野球の神様もファンも“あの日”の正木の実直な姿を見ているはず。苦悩を乗り越えた時、正木は今までよりも強くなっている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)