感染症で中指切断の可能性あった…気落ちする重田倫明を支えてくれた存在

ソフトバンク・重田倫明【写真:竹村岳】
ソフトバンク・重田倫明【写真:竹村岳】

入院生活中「何を生きがいに生きるべきか考えた」

 プロ5年目にして、初めて戦線を離れた。ソフトバンクの重田倫明投手は、2018年の育成ドラフト3巡目で入団し、これまで一度も怪我でプレーができなくなることはなかった。体が資本のプロ野球選手として、タフさは持ち味の1つだったが、先日、初めての”離脱”を経験した。

 5月上旬、重田の体を異変が襲った。右手中指が腫れて発熱。右手中指の「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と診断されて入院生活を強いられた。「蜂窩織炎」とは、皮膚と皮下の脂肪組織に生じる細菌感染症の一つ。右手中指から体内に細菌が入ったとみられ、39度以上の熱が4日間続いたという。

 最近で言えば、泉圭輔投手や生海外野手も同じ「蜂窩織炎」で入院。マイロン・フェリックス投手は脚に同様の症状が出ているという。いずれも原因は不明。チーム内では今季ここまで4選手が感染症にかかったということで、リハビリスタッフが原因を究明しているところだという。

 重田は入院生活中、さまざまなことを考えた。「野球をやっていない自分をすごく想像する時間が多くなって、そうなった時に何を生きがいに、何を刺激に感じて生きるべきか考えました」と振り返る。重田は医者から診察室に呼ばれ、こんな話をされたのだという。

「1回、指を切断する話が出て……。菌が関節内に入ったり、洗えないところに入ったりしてしまうと、最悪の場合、指を切断する可能性もあると言われて……。それを言われた時に、もしかしたら投げられなくなるかもしれない、普通の生活をしていても中指が短くなるかもしれないっていうのを考えたら、この先どうなるんだろうと色々考えました」

 蜂窩織炎は菌の種類や場所によっては切除を余儀なくされる可能性がある感染症だという。重田も「最悪の場合」を考えると、様々な思いが胸中を巡った。そんな入院生活中に、重田に気付きを与えてくれた存在がいた。それは、同じ病棟に入院している患者さんたちだった。

「全然知らないおじいちゃんやおばあちゃんがいろいろ話しかけてくれて。おばあちゃん達は窓の外を見るだけでも楽しそうなんですよ、外出禁止なんで。そういうのってすごく大事なことだなと思ったんです。些細なことですけど、美味しいものを食べるとか、外に出るとか、すごく楽しいことだなって思えたんです。だから、野球でも、ちょっと辛いことがあっても、もっと楽しもうって思えるキッカケになりました」

 こう語る重田の表情はどこか優しかった。結果的に「最悪の場合」を免れて無事に退院することができ、今月26日には、打撃投手として登板できるまで回復。「それからはすごく毎日充実しています。徐々に点滴を打たなくなる、抗生物質を飲まなくなる、汗をかいていい、運動していい、トレーニングしていい、投げていいっていう、段階を踏めることがすごく楽しかった。今まで当たり前だったんですけど、それがすごく楽しかった。ちょっと変な話ですけど、本当に普通に生きることがすごく楽しい」。

 育成選手にとっては、支配下登録の期限まであと2か月ほど。この時期の離脱に焦る気持ちもあったはずだが、この気付きが重田を精神的にも支えてくれた。「ずっと(支配下を)意識して、心折れそうになった時もありました」と打ち明ける。今季は公式戦に出場できる育成選手の枠の問題もあり、3軍戦で登板することもある。

「なんとしてでもっていう気持ちはあるんですけど、思い悩んで目指していくっていうよりも、もう楽しく、とにかくこれを自分の経験として集大成で出せる準備をしていく。何かタイミングが良くなって支配下にとなった時に、対応できる準備をしっかりしようっていう考えになっています」。目指すところの「今やっている職業のトップに行くこと」に変わりはないが、すべてのことに感謝して、楽しみながら、重田は支配下とその先の目標に向かっている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)