1年前は「プロ入りか進学か」で苦悩 育成ドラ1の「全て変わった」ルーキーイヤー

ソフトバンク・藤野恵音【写真:上杉あずさ】
ソフトバンク・藤野恵音【写真:上杉あずさ】

「育成なら大学進学」を翻して飛び込んだプロの世界

 昨年の今ごろは「入団か進学か」で思い悩んでいた。あれから1年……。2021年育成ドラフト1巡目でホークスに入団した藤野恵音内野手は晴れやかな表情でプロ1年目のシーズンを振り返る。

 地元・福岡の進学校である戸畑高から悩んだ末に憧れのプロ野球の世界に飛び込んだ。ルーキーイヤーは3軍で92試合に出場して打率.250。武器である俊足で12盗塁をマークし、本塁打も2本放った。顔つきにも変化が表れ、身体つきもひと回り、ふた回り大きくなった。結果もしっかりついてきた。これからの期待感を感じられるシーズンだった。

 振り返ってみると、ちょうど1年前、藤野の心中は揺れていた。ドラフト前から「育成なら大学進学」と決めていた。だが、名前が呼ばれたのは育成ドラフト1巡目。もともとの方針通りであれば、大学進学に気持ちを切り替え、4年後のプロ入りを目指すはずだった。

 だが、地元・福岡で生まれ育ち、幼少期から憧れてきたソフトバンクからの指名は、たとえ育成であっても高まるものがあった。更に、球団側から多くのトップ選手を輩出している「育成システム」や「セカンドキャリア支援」などの説明を受け、不安は払しょくされた。18歳にして現実を冷静に受け止められただけに、育成入団には慎重だったが、プロ入りを決めたのだった。

 そんな藤野を待っていたのは充実の1年間だった。2月の春季キャンプでは初日からいきなりC組スタートだった松田宣浩内野手がキャッチボール相手になった。「イップスになりそうでした(笑)」とテレビで見てきたスター選手との時間に緊張と共に喜びを感じた。

 武器の俊足を生かすために育成の先輩でもある周東佑京内野手からも学んだ。「周東さんを見ているだけでも脚が速くなりそう」と間近で観察。「周東さんはスタート姿勢が低い。あと、周東さんみたいに半歩くらいリードを広げたら成功率も上がりました」。周東のような“スライディングの強さ”を習得しようと本人にも質問した。先輩たちからも積極的に学ぼうとしてきた。

 野球に取り組む姿勢や潜在能力に対しては、春先から首脳陣の期待や評価が高かった。進学校出身で、高校時代は勉強に費やす時間も多かった。強豪校出身者と比べれば、知らないこと、経験してこなかったことも数多くあった。ただそれは裏を返せば、伸びしろも計り知れないということ。素直さも持ち合わせる藤野はスポンジのように吸収し、成長を遂げてきた。

 高校時代の対外試合は土日、祝日だけだったが、ソフトバンクは3軍でも数多くの試合が組まれ、1年目から実戦の機会にも恵まれた。その一方で体力的な課題も感じることができた。「最初は試合に出たら活躍してやろうと気合いも入っていましたが、試合に出続けるようになってくると徐々に疲労が溜まってきて……」。試合に出続ける大変さを3軍ながらに実感した。

 コンディションの管理やセルフケアには気を遣ってきたつもりだが、それだけではカバーしきれないと感じ、球団のトレーナーに頼んで治療やケアへの意識、方法も教わった。「プロに入って一度も怪我でリハビリに行ってないのは誇れるところ」と藤野は胸を張る。身体作りを続け、体力をつけつつ、経験も重ねることが出来た。

「この1年間で全て変わった。身体も人間的にも全部変わったぞと言ってやりたいです」と、藤野は1年前の自分の決断に胸を張った。プロ入りを決めたことに後悔はない。充実の1年目を終えた藤野のこれからの成長が楽しみだ。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)