長谷川コーチがかつて語った夢「誰が見てもすごい打線」
チーム打率.261、707得点はいずれも12球団トップ。現役時代に「最高の打撃」を追い求めた求道者は、指導者として「最強の打線」を作り上げた。長谷川勇也打撃コーチ兼スキルコーチが振り返る激動の2026年。その鍵を握っていたのは、正木智也外野手の存在だった。かつて口にした厳しい“叱咤激励”――。想像を上回るほどの成長ぶりに、41歳の表情はどこか誇らしげだった。
長谷川コーチは現役時代に通算1108安打を放ち、2021年オフに現役を引退。翌年から指導者に転身し打撃コーチ、動作解析部門などさまざまな経験を積んできた。どんな肩書きを背負おうと、一貫していたのは選手の力を引き出し、日本一の「打線」を作り上げることだ。
「僕の理想としては、打率の10傑に何人も入るようなチームにしたいです。実力もそうですし、誰が見てもすごい打者が並んでいるなという、目に見てわかる打線にしたいです」
指導者に転身した当初、そう語っていた。小久保裕紀監督は「僕は今年1回も打順を決めていないです」と全幅の信頼を寄せるほど、打線の構築を任されていたのが長谷川コーチだった。現役時代、誰よりも己に妥協を許さなかった男は、いかにして12球団トップの得点力を誇る打線を作り上げ、教え子たちを成長させたのか。日本一の頂で明かした“打撃論の真髄”と、正木に見えた「最高の武器」の正体に迫る。
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この先で分かる3つのこと
「正木がハマった」長谷川コーチが明かす1番抜擢の意図
「死ぬ気でやる試合がある」蜂窩織炎の正木に送った叱咤
「鈍感さが最高の武器」長谷川コーチが語る正木智也の凄み
28本塁打を放った正木智也の「最高の武器」
「12球団で一番得点を奪いましたし、そういう意味では一番良かったのかなと思いますけどね。まあ、もうちょっといけるのかなと思います」
40本塁打を放った栗原陵矢内野手を中心に「3割30本塁打100打点」を達成した近藤健介外野手ら、球界のスターがずらりと並ぶ。それでも長谷川コーチは、最強の打線を作り上げた今季を振り返り、選手たちのさらなる成長に期待を寄せた。
「能力を持っている選手たちが多いですからね。怪我人がいればもっと苦労したと思うんですけど、それが出なかったことがよかったです。思い通りの打順を組ませてもらえたのが一番です」
選手がシーズンを通して戦えるよう、フィジカル面を支えたスタッフへの感謝も忘れなかった。そんな長谷川コーチが分岐点に挙げたのは、5月16日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)だった。前日に今季1号を放った正木を1番打者に抜擢した。
「中軸にポイントゲッターはいたので、それよりも前の打者ですよね。長打もあって、フォアボールも取れる。より確率高く、スコアリングポジションに走者を進められる選手が必要だった。正木がバチッとハマったのはありますよね」
求めたのは、長打力を兼ね備えたリードオフマンだった。正木は期待に応え、球団記録となる7本の先頭打者アーチを記録。首脳陣の起用は、最高の形で実を結んだ。
ただ、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。正木はオープン戦で打率.188と苦しみ、蜂窩織炎(ほうかしきえん)の激痛に耐えながら、グラウンドに立ち続けていた。限界を迎えたのは3月17日の中日戦(みずほPayPayドーム)。ライトスタンドに本塁打を放ったものの、この試合を最後に戦線を離脱した。現役時代、ボロボロの体でヒットを量産してきた長谷川コーチも、正木の状態は把握していた。その上で、プロの世界で戦い続ける厳しさも語っていた。
「足がそういう状態というのも知っていましたけど、プロ野球選手ってどこかでそういうゲームがあるんです。死に物狂いでやらないといけない試合が」
試練を乗り越えた者だけがレギュラーの座をつかみ取れる。そんな厳しい世界で、プロ5年目の26歳はレギュラーシーズンで28本塁打を放ち、日本シリーズではMVPを獲得した。激痛と厳しい言葉から始まった2026年。想像を超える成長を遂げた正木の姿に、長谷川コーチも目を細める。
「このまま我が道をいってくれたらと思いますね。自分を貫き通せるだけの鈍感さが彼にはあるし、それが最高の武器なので。今に満足することなく、さらに技術を求めながら、より自分と向き合える選手だと思う。このままいってくれたらなと思います」
打線は「もっと良くできるんじゃないか」
日本シリーズでMVPに輝いた正木は「シーズン終盤で調子を落としましたが、あげることができたのは近藤さんと長谷川コーチのおかげです」と感謝を口にした。小久保監督も「長谷川コーチと村松(有人)チーフの打線の組み方、それが今年の総得点に直結した」と賛辞を贈った。それでも、長谷川コーチの視線はすでにその先を向いている。
「チーム全体の攻撃陣に関しては、もっと良くすることができたんじゃないかなとも思いますし。例えば練習方法だったり、選手へ声をかけるタイミングだったり。そういう部分も含めてもっと指導の幅を、個々の技術を上げていくための方法をもっと深く導いていかないといけないなと思います」
今季、パ・リーグの打率10傑に入ったホークス戦士は4人。「最高の打撃」を追い求める旅路は、どこまでも続いていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)