小久保監督が次回登板について「フロントと会議」
無限の可能性を秘めた21歳の未来を、球団はどのようにして守ろうとしてきたのだろうか――。今季12勝を挙げ、一気にブレークを果たした前田悠伍投手。ファームリーグが開幕した3月以降、2軍も含めた22度の実戦登板で「1922球」を投じてきた。この数には、球団としての思慮が隠されていた。
19日の楽天戦(楽天モバイル最強パーク)で先発した左腕は4回2/3を投げ、5失点で今季初黒星を喫した。ここまで12勝を挙げて、タイトル争いにも絡んでいる背番号41について、小久保裕紀監督は試合後に「そこはもう少しフロントも含めて会議します。どちらにしてもCS前の調整登板は必要なので」と、残りシーズン中での登板についての明言は避けた。
才能が花開き、悲願のパ・リーグ3連覇に大きく貢献した前田悠。一方で、まだ高卒3年目の21歳という現実も忘れてはならない。どのように若き才能のリスクをコントロールしていくのか。タイトル争いの真っ只中にいる若きエース候補に対して、球団が敷く厳格な“ブレーキ”とは――。
「人生を棒に振るような起用は、ウチではしない」
城島健司CBOと、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の言葉から、選手の未来を守る組織の裏側を紐解いた。
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この先で分かる3つのこと
1922球の裏側…今季の数値を「ある程度決めている」
「前田は違う」城島CBOが語るタイトル争いと怪我の予防
予想以上の回復力…倉野コーチが語る前田悠伍の「可能性」
城島健司CBOが明かす裏側「前田はそことは違う」
「シーズン前から、3年目の彼の体調とかを踏まえて、球数制限をある程度決めている。あくまでベースではありますが、それが指標になってくると思う。このままいくと、何イニングになるかということですよね。1球でも超えたらダメというものではありませんが、コーディネーターの会議で前田(悠伍)の球数や『こういう状態』というのは常に話していますから。(重要視しないといけないのは)故障のリスクです」
前田悠だけに限らないが、ホークスでは試合の球数はもちろん「ブルペンで何球投げたか」までしっかりと管理しているという。リハビリ組では首脳陣の目に届くよう「キャッチボールを何分したか」まで用紙に記入するのが日常だ。選手の未来を守るために、打てる手はすべて打つ。「怪我のリスクもあって、決めていたイニング数を超えていたら、もしそれが日本シリーズの第7戦であろうと投げさせません」と城島CBOはキッパリと言い切った。
前田悠がいま、タイトル争いに加わっている。この状況を十二分に理解した上で、城島CBOは球団としての見解をこう口にした。
「これが来年(前田悠の4年目)だったらまた話は違うんですけどね。例えば、うちで言えば、今は松本(裕樹)や杉山(一樹)がタイトル争いに絡んでいる。彼らには経験がありますよね。優勝のためにも頑張って連投してもらいましたし、これからは自分のタイトルに向かって投げさせることはあると思います。ただ、前田(悠)はそことは違います。怪我をしていなくても、予防です。それで彼の人生を棒に振るような起用方法は、ウチではしないです」
現役時代に数々の栄光を味わった城島CBOだが、「今の僕らの野球は、現場だけで決められるものではない。(選手の登板管理についても)今、議論に上がったわけではなくて、ずっと決まっていることなので、小久保監督もああいう発言になったんだと思います」と続けて語る。前田悠の未来、チームの勝利、タイトル……。さまざまな要素を鑑みても、球団の方針が揺らぐことはない。
倉野コーチの想像を超えた回復力「新たな発見」
ホークスはコーディネーター制を敷いて、選手の起用方針を決めている。「ヘッドコーディネーター(投手)」の肩書きも背負う倉野コーチは「(指標は)球数だけではないですよ。明確に『じゃあ何球を超えたらやめましょう』みたいなものではないです」と明かす。現場と球団、どちらの意見にも耳を傾ける“中立”の立場。「ただ(決めていたものを)超えたらどうするのかは、議論しないといけないですよね」。そう言い切る口調に迷いはない。
3年目にして飛躍を遂げた前田悠の働きに対し、倉野コーチは「予想以上」と本音を口にしていた。1軍では18試合に登板して、球数は計1670球。重圧がかかるマウンドもあり、左腕の身体にかかる負担は大きかったはずだが、その一方で倉野コーチは「新しい発見があった」と言う。
「今年ここまでの球数、イニングを投げるとは思っていなかったですけど、それ以上に悠伍の回復力、耐久性も含めて、こんなにパフォーマンスが落ちないんだ、という新たな発見になりましたね。未知なる可能性というか、見えていなかった部分がいい意味で見えた。それは悠伍にとっても大きなことじゃないですか。本人にとっても、わからないことだったと思うので」
中6日を4週連続で回したのが、今シーズンは2度あった。首脳陣の想像を超えたのは、きっと左腕が積み重ねた努力の賜物なのだろう。城島CBOも「彼の場合はトレーニングもして、体を作って成長曲線を描いていかないといけない。今年は頑張ってくれましたが、彼のビジョンはもっと先にあります」と力強く語る。首脳陣とフロントの話し合いの末、シーズン中にもう一度、マウンドに上がることが決まった。首脳陣と球団がかける大きな期待に、前田悠伍ならきっと応えられるはずだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)