敬意と感謝…スタッフに向けた“本音”
2026年シーズン、ホークスは球団の福岡移転後初となる3年連続のリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは主力選手はもちろん、若手や首脳陣にもスポットライトを当てながら今シーズンを振り返っていきます。3連覇を現実のものとした強力投手陣を作り上げた倉野信次投手コーチが明かしたのは、コーチ人生で一番苦しかったと語る投手陣の運用でした。「種明かしというほどでもないんですけど……」。春先に苦しんだ中継ぎ陣の起用と立て直しにおいて、シーズン中に何を決断したのか。そして、春季キャンプ前に投手コーチ全員を集めて語っていた“懸念”と、奇しくもその言葉通りになった苦しさの中で、どのような答えを導き出したのか。その真相に迫ります。
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「今年はかなり厳しい年になる。一番大事なのはファームの底上げ。とにかく1軍に上がるまでのレベルの選手を1人でも多く作ってくれ」
春季キャンプに入る直前の投手コーチミーティング。倉野コーチのこの言葉から、今季の投手陣運用は始まった。シーズン序盤、松本裕樹投手はWBCの影響を受けたのか調子が上がらず、杉山一樹投手はベンチを殴打して左手を骨折。ロベルト・オスナ投手は契約内容の問題で一時起用法が不透明となり、リバン・モイネロ投手は調整遅れが長引いた。チームの主軸を担う投手らに“想定外”の試練が次々と襲いかかった。
5月までにチームは28勝23敗。首脳陣が想定していたピースが崩れる中で、光が見え始めたのが6月だった。月間14勝5敗1分と大きく勝ち越し、巻き返しに成功した背景には、中継ぎ陣の奮闘があった。倉野コーチがこの時期に語っていたことがある。
「立て直しの要因は色々あるんですが、今は種明かしすることはできない。だけど、僕の中で一つ考え直す“きっかけ”があって、それは(小久保裕紀)監督にも提案しました」
シーズン途中では明かせなかった“立て直しの種明かし”とは何だったのか――。「いろんな想定をしてる中で、かなり悪い方向に振れたというのはありました。今年に関しては、僕の経験の中で一番苦しかった」。苦闘の末に掴んだV3の舞台裏で、投手陣とチームの運命を変えた「決断の瞬間」がそこにはあった。
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この先で分かる3つのこと
倉野コーチが腹を括った投手陣立て直しの“種明かし”
前田悠伍の先発起用を倉野コーチが即決した理由
倉野コーチが「序盤のMVP」と絶賛した2人の投手
「腹を括った」日替わり起用からの転換
「『状態が良い人が7回、この人が8回』といったシミュレーションを監督と毎日一緒にするんですけど、どうしても上手くいく時といかない時の波が大きくて。なかなかチームとしても乗っていけないところがあった。状態が良いと思っていたピッチャーがそうではなかったり、という誤算も結構あったので。僕の中で『これはもう腹を括って逆に固定させよう』と。『あなたの役割はここですよ』と固定した方が、選手の力を発揮できるんじゃないかということを監督に提案したんです。そこは腹を括るしかないなというのが、僕の中でもありました」
その日の状態を見て翌日の役割を変えるような流動的な起用をやめ、腹を括って選手を信じきる。その覚悟は、怪我から復帰して2試合を投げたばかりの杉山を、再び守護神に据える決意へと繋がった。「杉でやられたらしょうがないと僕も腹を括れたし、監督もそう思ってくれた」。7回オスナ、8回松本裕、9回杉山という勝ちパターンを固定したことが、序盤のチームを勢いづける最大の要因となった。それが倉野コーチが語る“種明かし”だ。
「選手のコンディションやメンタルの部分も含めて、情報を一番持っているのが僕なので。踏み切れなかったのは、不安材料のほうが大きかったから。あの時期は正直それがありました。でもそこで振り切れたのは本当に選手を信じて良かったし、選手がそれに応えてくれた。感謝しかないですね」
救世主となった若手とファームスタッフへの感謝
もちろん、勝ちパターンの確立だけでは長いシーズンを乗り切れない。その間に救世主となったのが、開幕からチームを支えた木村光投手や、配置転換に応えた上茶谷大河投手だった。「この2人の存在がなければ、その後の成績には繋がらなかった。序盤のMVPですね」と称える。
さらに上沢直之投手と徐若熙投手の離脱、モイネロの復帰が遅れる中で、台頭したのは支配下登録を勝ち取った投手たちだ。
「1軍が困った時の穴埋めかもしれないですけど、重要な役割をしてくれたと思うんです。白星が付かなかった部分はありましたけど、藤原(大翔)にしても、(アレクサンダー・)アルメンタにしても、北斗にしても、1軍のマウンドに立てるだけの力をつけてくれた。僕の中で今年は『ファームのスタッフの勝利』だと思っているんですよ。これは本心でそう思っています。1軍レベルの選手を育ててくれたスタッフのおかげです」
倉野コーチはそう語り、すべての投手コーチの尽力に深い感謝をにじませた。キャンプイン直前に伝えていた「危機感を持ってやってほしい」という言葉。昨季は3週間先まで決まっていたローテーションが、今季は1週間先までしか埋まらない状況だった。シーズン前から懸念した通りの苦しさを味わう中で、首脳陣が一体となって1軍の危機を救った。
「誰かが代わりになる活躍ができるというのが、僕はホークスの強みだと思っている」。その陰には、選手を信じ抜き、裏方に精一杯の感謝を捧げる1人のコーチの揺るぎない信念があった――。
(飯田航平 / Kohei Iida)