ファームでの日々を経て「やっぱり上へ来てこそなので」
久しぶりの快音が心地よかった。11日に行われたロッテ戦(みずほPayPayドーム)。7回、山川穂高内野手のバットから放たれた白球はぐんぐんと飛距離を伸ばして、バックスクリーンへと吸い込まれていった。今季10号となる2ラン。8日の日本ハム戦で1軍に復帰してから4試合目、1軍では実に5月10日のロッテ戦以来の一発となった。
「ファームでもホームランはちょくちょくは出ていたんですけど、やっぱり上へ来てこそなので。昨日の感じから引き続き、いい形で打てたなというのがあります」
1軍復帰後初アーチ。安堵と充足が入り混じり、山川の表情は晴れやかだった。不振で6月1日に出場選手登録を抹消されてから約3か月。灼熱の夏をファームで過ごしていた35歳は再昇格の声がかかるのをただ待っていたわけではない。長く抱えていた違和感に対して、「思い切って」施したある修正――。そして、2軍暮らしの間に、ガラリと変えた生活リズム……。それが、この一発への布石となった。
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この先で分かる3つのこと
体重減による打撃不振と、筋トレ開始のキッカケ
復活への手応えをつかんだ「左肩の使い方」の修正
試合終了5分で帰宅、35歳で変えた睡眠へのこだわり
今季は体への負担を軽減し、練習量を確保するために体重を減らす決断をした。だが、これが打撃に狂いをもたらした。
「飛ばないわけじゃないんですけど、自分の満足のいく、厚みのある打球が出なかった。体を振ったり、あれこれしちゃったっていうのはある」
自分の感覚と、打球の飛び方が違う。これまでの打球を追いかける余り、フォームも崩れていっていた。転機は2軍に降格して1か月ほど経って訪れた。大宜味諒2軍ストレングス&コンディショニングからかけられた一言がキッカケだった。
「山川さん、ウエートやりませんか?」
これまで器具を使ったウエートトレーニングを行ってこなかった山川。それでも圧倒的な飛距離を誇ってきたが、年齢を重ね、体重を落としたことでそうもいかなくなった。新たな習慣を取り入れて約2か月ほど。肩まわりの厚みは増し、体重も110キロ前後まで戻ってきた。
「今日は当てるぐらいで行ったんです。気持ち的には。ポコンってくらいであの打球が出た」
さらに、前日から左肩の使い方を変えた。
「(ボールを)両目で見ようとしていて、体を開いたまま振っちゃうというか……。しっかり左肩を最初から入れて、ボールを潰していく。この意識を昨日の打席の時にやってみて、いい感じだったんで、今日は右(投手が相手)でもできるかなと思って」
山川が求めるのは打球の「厚み」だ。
「当たりが薄い時っていうのは全然ダメなんです。当たりが薄い時は力が入りすぎたりするので。今日は当てるぐらいでいったんです、気持ち的には。もうポコンってくらいで、あの打球が出た。あれができるとすごく楽ですよね、バッティングって」
自身も納得の一打だった。
「もう35歳なんで。寝ようと思って」
変えたのは練習の中身だけではない。生活そのものも一変させた。これまで身体が万全であれば、試合後もバッティング練習に汗を流してきた。だが、この日の試合後に本拠地を後にしたのは、試合が終わってわずか5分後。シャワーも浴びず、ボディペーパーで身体を拭いただけで家路についた。
「寝た方がいいんだって。ここで練習したい気持ちも山々なんですけど、もう35歳なんで。寝ようと思って。かなり寝つきが悪いタイプで、睡眠の質を上げようと思ったんです。すぐに帰って、湯船に浸かりながらミストサウナに入って。ご飯を食べて、治療して寝る。10時間は寝られるように、と。昔は寝ない方がいいと思っていたんですけどね」
夜遅くまで練習することが当たり前だった山川が早々に帰路に就く。逆に、試合前は早く球場に訪れて、2か月前から取り入れるウエートトレーニングに汗を流す。ファームで調整する間、山川は至るところで自分の生活を組み替えてきた。だからこそ、ファームで過ごした時間が大きかった。
「2軍にも素晴らしい選手がいっぱいいましたし、まだ1軍で1回も見たことがないような選手がすごく頑張っている姿を見て『野球っていうのはこういう気持ちでやらなきゃいけない』と。いい刺激をもらえたのは事実。2軍に行ったからウエートトレーニングを始めたというのも絶対そうですし。今年、たぶん上に居続けたら、そういう発想も無かったので。より進化できるようにしていきたいですね。(2軍の日々は)全然無駄じゃないというか。無駄じゃないと言えるかどうかというのは、またこれから先の成績次第ですけどね」
1軍に居続けていれば、生まれなかった発想。打率1割台と不振に喘いで、ファームに降格になったからこそ、見えてきた景色でもあった。
チームの優勝へのマジックは「9」になった。遅ればせながら、戻ってきた山川の胸には期するものがある。
「もちろん(スタメンで)出るつもりではありますけど。どんな状況でも、どういう形でも、ここまで来たらもうとにかく優勝。自分のできることを精一杯やっていくというのはある。今年の成績はどうしても、これから爆発的に上がるというのは数字的に難しいので。今年はできる限りのこと、CSや日本シリーズで活躍できて、さらにその先もちゃんとできるようにイメージしながらやっています」
明るい表情の山川は颯爽と本拠地をあとにした。パ・リーグ3連覇にひた走るホークス。帰ってきた背番号5のバットが、チームをさらに加速させるピースになる。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)