6失点で今季初黒星…試合後に小久保裕紀監督が登録抹消を明言
決して、大袈裟な表現ではない。お互いがプロ野球人生の「命」を預け合って臨んだマウンドだった。「僕たちは、運命共同体なので」。渡邉陸捕手との深い絆について、上茶谷大河投手が口にしていた言葉の真意――。崖っぷちの状況で本音をぶつけ合い、魂を削って駆け抜けた“5試合”に迫る。
3連敗となった15日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。7月から先発ローテーションに加わり、渡邉とバッテリーを組んで4戦3勝と結果を残してきた上茶谷だが、この日は立ち上がりから失点を重ねた。初回から宗山に2ランを浴びると、3被弾で今季ワーストの6失点。今季初黒星を喫すると、試合後には小久保裕紀監督が2人を登録抹消することを明言した。
渡邉は2回、一時同点に追いつく1号ソロを放った。1軍での本塁打は1試合2発を放った2022年5月28日の広島戦以来。プロ8年目の今シーズン、6月4日の昇格後は限られた出番で爪痕を残そうと、泥臭く準備を重ねてきた。上茶谷はその姿を誰よりも間近で見つめてきたからこそ、相棒への溢れる思いを隠さなかった。「次」のチャンスがないことを覚悟していた男たちの、あまりにも切なく熱い本音とは――。
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この先で分かる3つのこと
「僕が打たれたら陸も…」上茶谷大河が抱いていた悲壮な決意
首を振られても折れない強気…上茶谷と渡邉陸の深き信頼関係
1発放つも無念の抹消…渡邉陸と上茶谷が静かに語った悔しさと覚悟
「僕が打たれたら陸も抹消」…右腕が口にしていた悲壮な決意
「お互いの命がかかっているんですよ。陸と僕は運命共同体なんです。僕が打たれたら陸は一緒に抹消されるかもしれない。だからこそ、自分のためというのが一番ですけど、僕たちはお互いのために頑張らないといけないんです」
1週間前の前回登板、8日の西武戦(ベルーナドーム)を終えた右腕は悲壮な決意を口にしていた。首脳陣が渡邉に対して与えている出場機会は右腕の登板日のみ。上茶谷自身の立場も、ローテーションの中では“崖っぷち”だった。自分たちに、後はない――。それを理解しているからこそ、力を合わせて週1回のチャンスに全てをかけてきた。「そういう意味で、お互いがお互いのことをえげつないくらいに考えていたはずですよ」。そう語る言葉には、並々ならぬ覚悟が溢れ出ていた。
2024年オフに行われた現役ドラフトでDeNAからホークスに移籍した背番号64。古巣でも数多くのキャッチャーとバッテリーを組んできたが、その中でも渡邉は「一番強気ですね」と言う。それを強く感じるのは、渡邉の出したサインに対して右腕が首を振った時だ。
「『いや、これで来てください』というのが伝わってくるんですよ。僕、そういうの乗せられるんですよね」
首を振っても同じ球を要求してくるのは、渡邉がそれだけ準備しているから。腹を割って全力でぶつかってきてくれるからこそ、相棒の「強気」を感じられる。その事実に、上茶谷の胸は熱くなる。「よっしゃ、わかった」――。18.44メートルの間で交わされる無言の会話。この日は敗れたものの、2人で掴んだ3つの勝ち星は、まぎれもなく努力と準備の結晶だ。
打たれて負ければ登録抹消されると「わかっていた」
上茶谷の痛烈な言葉に、渡邉も「一緒に抑えていくしかないですよね」と同調する。自らが貫いてきた“強気”の真意。お互いの人生をかけ、日頃の練習から密に意思疎通を図っているからこそ、ピンチを迎えても覚悟を決められる。
「投手が投げたい球を投げさせることも大切ですけど、それで打たれて後悔したこともあったので。ピッチャーが納得せずに投げたら意味はないですけど、かみちゃさんも腹を決めて頷いてくれる。あとはお互いに試合中で感じていることもあるので。そのコミュニケーションですね」
6月の1軍昇格から2か月。与えられたチャンスで結果を出すために、妥協なき準備を続けた日々は、かけがえのない財産にもなった。「“後がない”ところから始まって、1試合ずつ勝てたのは貴重な経験になりました。でも、打たれて負けたらこうなる(抹消される)ことはわかっていたので」。首脳陣の判断を受け止めた口調は、淡々としている。そして「悔しいですね」と続けて語った。
来週、チームが控えているのは5試合。上茶谷の登録抹消は、首脳陣もタイミングを探していた「計画的」なものだった。“一区切り”になる一戦で4年ぶりのアーチを描いたのは、渡邉にとっても大きなアピールになったはず。「やっぱりホームランはいいなと思いましたね」。手のひらに残る感触を、静かに振り返った。やるべきことに集中する――。“プロの姿”を貫いた25歳なら、再び1軍でチャンスを掴めるはずだ。
試合後、帰路に就いた上茶谷の表情は決して暗くはなかった。6失点を喫して、登録抹消。結果を真っすぐに受け止めて、言葉を絞り出した。「自分の実力のなさを痛感させられました。僕としてもこの試合を超えていかないといけないです」。上茶谷大河と渡邉陸。覚悟を決めて試合に臨む2人の男は、本当に美しかった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)