意識する「試合を落ち着かせる投球」
寡黙な男が、淡々と自身の役割を全うしている。今季、ビハインドや点差の開いた場面を中心に登板を重ねる伊藤優輔投手。自己最多の23試合に登板して1勝負けなし、防御率2.08という成績を残しているが、返ってくるのは「ぼちぼちです」という控えめな言葉だ。
13日にみずほPayPayドームで行われたロッテ戦。2点ビハインドの8回からマウンドに上がった右腕は、小気味良いテンポで2イニングを無失点に抑えてみせた。負けゲームであっても傷口を広げず、9回の攻撃へと流れを引き寄せる投球。11日の同戦では、11点リードの展開で登板したが、その際もきっちりと3人で締めた。
決して感情を表に見せるタイプではない伊藤だが、内に秘める熱い思いがある。今季、背番号42の心に起きた「意識の変化」。見据える先にあるのは、“最後まで”チームに貢献する思い――。そして、その活躍を温かな目で見つめる男がいる。
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この先で分かる3つのこと
好成績でも「ぼちぼち」…本人が語る本当の課題とは
鍬原広報も驚く、寡黙な右腕が自ら打ち破った“殻”とは
激しい救援陣争いの中で伊藤が胸に誓う「秋の目標」
先輩・鍬原広報だからこそ知る変化
「大学の時から怪我が多くて。順風満帆とは言えない生活だった中で、今こうやって1軍の舞台で投げられているということは『すごいな』って思います」
こう語るのは、中大時代の1学年上の先輩であり、巨人時代も共に苦難を分かち合った鍬原拓也広報だ。後輩の歩みを見守る温かい目は、現役時代から変わらない。「賢いし、めちゃくちゃ頭がいいんですよ」と続ける鍬原広報が知る伊藤は、誰に言われるでもなく1人で考え、静かに自らを動かすタイプだった。
それゆえに、今の伊藤が見せる変化には驚きを隠せない。右腕は、若田部健一投手コーチ(ブルペン)やコンディショニング担当へ積極的に歩み寄る。「その時によって自分の体のコンディションや、しっくりくるフォームが違う部分があるので。練習とかで色々と試行錯誤したり、コーチに聞いたりしながらやっています」。マウンドの裏では、自身の体やフォームに合った教えを貪欲に聞きにいく。その姿に鍬原広報も「変わったんですね。僕にも聞きにきたことなかったのに」と目尻を下げる。
語った目標…「日本シリーズのメンバーにも入りたい」
もちろん、数字上の結果だけで自分を甘やかすつもりは毛頭ない。今季は23試合に登板して計26イニングを投げているが、被安打23、四死球は19個も与えている。ここに伊藤が「ぼちぼちです」と語る理由がある。つまり、失点はしないが3人で終える登板が少ないということだ。
「やっぱりフォアボールは一番出したくない。野手からすればそんなに印象が良いものではないので、そこを減らせればベストですね。しっかり3人で終われるイニングを増やしたい」と、自身に対する評価は厳しい。
「もうちょっとスムーズに抑えたいなというのはありつつ、数字的にはそこまで悪くはないので。それを含めてぼちぼちです。試合を落ち着かせるような投球で、相手に流れを渡すようなことがないようにということを意識しながらマウンドに上がっています」
登板間隔が不規則になりがちな立場でもある。だからこそ、出番がない日もブルペンで投球量を増やし、入念に試行錯誤を繰り返す。「投げていないと不安もありますし、試したい部分もあったりするので。35試合くらいは投げたいですね。CS(クライマックス・シリーズ)、日本シリーズのメンバーにも入りたいので。入れるように結果を残していきたいです」。
ホークスが誇るブルペン陣は、まさに鉄壁だ。それは相手打線だけではなく、味方投手陣にとっても同じで、勝ちパターンという枠組に割り込むことは決して容易ではない。それでもどんなに点差が開こうが、ビハインドであろうが、伊藤が意識するのは自身の投球でチームに良いリズムをもたらすことだ。自ら殻を破った変化――。寡黙な男が秘める内なる思いは、勝負の秋へ向かうチームをしっかりと支えている。
(飯田航平 / Kohei Iida)