柳町が代打の時に大事にする中村晃と長谷川コーチの教え
たった一振りで試合を決めた。1-1の同点で迎えた7回。ホークスを勝利に導いたのは、代打で送り出された柳町達外野手だった。
先頭の牧原大成内野手が内野安打で出塁すると、山本祐大捕手の打球が野選を誘って一、二塁に。川瀬晃内野手が手堅く犠打を決め、一死二、三塁と好機が膨らんだ。ここで9番の庄子雄大内野手に代わって打席へ向かったのが、柳町だった。
1ボールからの2球目、森脇のフォークを捉えた打球は左中間を真っ二つ。走者2人が生還し、柳町も三塁へ。勝ち越しの2点適時三塁打になった。この試合最初のスイングで完璧に仕留め、三塁ベース上でガッツポーズを決めた。
「1アウト二、三塁だったので、なんとか前に飛ばして、1点取れればいいかなという思いで打席には入りました。結果は運なところもあるので、それまでのアプローチでちゃんと前に飛ばせばいいっていう、そういう形にしてくれたみんなのおかげかなと思います」
この一打で、今季の代打成績は驚異の6打数5安打で6打点。「正直、運でしかないとは思っているんですけど、難しいと言いますか、1打席しかないんで来る球を待つんじゃなくて、自分から狙いに行くっていうところの、狙いが上手く当たっているのかなと思います」という勝負強さの裏には、2人の偉大な先輩から受け継いだ言葉がある。
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この先で分かる3つのこと
中村晃と長谷川勇也コーチから授かった代打の心得
驚異の代打成績を残す背番号32が大事にする流儀
村松コーチが明かす、柳町達の起用を巡る贅沢な葛藤
柳町が胸に刻むのは、今季限りで現役を引退する中村晃外野手と、長谷川勇也打撃コーチ兼スキルコーチの教え。そして、その2人の考えは共通している。
「もう本当に1打席しかないんで、自分から仕掛けに行くしかないっていうことは、2人ともおっしゃっていましたね。自分から行かないと後手に回ってしまうんで。それだとなかなか良い結果にならない。そういう思い切りというか、自分から事を起こしていくのが大事だと聞いたことがあります」
スタメンの機会は多くないが「出されたところでやるしかない」
この日、仕留めたのは2球目のフォークだった。「すごく上手く反応できたかなと思います」決して狙っていたわけではないが、待つのではなく、自ら仕掛けに行く姿勢が、この日初めて見た球種にも反応できた要因だ。
昨季、最高出塁率のタイトルを獲得した柳町といえど、難しい立場にある。レギュラーとして常にスタメンで試合に出続けているわけではなく、スタメンの日もあれば、この日のように途中で出ていくこともある。選手であれば、誰でもスタメンで出たいもの。それでも柳町は、与えられた立場を冷静に受け止めている。
「出されたところでやるしかないんで。スタメンで出るときはスタメンの仕事、ベンチにいるときは今日みたいな良いところで1本っていうところで、どんな場面でもちゃんと自分の仕事ができればなと思っています」
その時任された仕事をとにかく全うする。いま、柳町が大事にしているスタンスだ。
そんな背番号32の働きぶりに、村松有人野手チーフコーチも目を細める。「本当にああいう場面で心強い打撃をしてくれる。ああいう場面で打つのは本当に難しいですし、しっかりと自分の形を持って打席に立っているんじゃないですかね」
首脳陣としてスタメンで送り出していきたいところがある一方で、これだけ勝負所で結果を残していると、ここ一番で託せる人材としても貴重な存在となる。
「ああいう場面で打てるっていうのは力を持っている証拠なんで、スタメンでも頑張ってほしいんですけどね。基本スタメンで、出てほしいっていうところはあるんですけど、山本もいないですし、牧原(大)が外野行ったりするのは負担も大きいので。でも、途中からああやっていけるんで、そういう使い方というのも多くなっていくのかな、というのはありますね」
スタメンで送り出したい。だが、終盤の勝負どころに残しておける存在としての価値も、あまりに大きい――。首脳陣が抱えるのは、そんな贅沢な葛藤だ。どこで名前を呼ばれても、やることは変わらない。3連覇へ突き進むホークスの、強みの1つとなっているのは間違いない。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)