「正解か不正解か分かるまで」
「もう球速はこれ以上伸びないかも」――。そんな諦めにも似た感情を抱いた先に、待っていたのは予期せぬ瞬間だった。22日にタマスタ筑後で行われたファーム・リーグの中日戦で、先発マウンドに上がった大山凌投手は、6回無失点の好投を披露。2回、ロドリゲスに投じた直球は、自己最速を塗り替える157キロを計測した。2軍降格後、模索を続けてきた右腕が“覚醒”の要因を語った――。
弾けるような躍動感がマウンドで爆発した。「周りからも『良い時は飛び跳ねてる』とよく言われます」と照れくさそうに笑う大山だが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。5月22日に今季初の1軍昇格を果たしたが、わずか5日後に2軍降格。理想と現実のギャップに直面し、自分の限界を疑ったこともあった。球速が急に3キロも上がるというのは、そう簡単に起こることではない。
「155キロが出た時点で『更新した』と思って、(ロドリゲスに対して)三振を取りにいったら157キロが出ました」。そう振り返る右腕だが、なぜこのタイミングで眠っていたポテンシャルが爆発したのか。そこには、首脳陣がかけ続けてきた言葉と、ようやく知ることができた「大切な気づき」があった。
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この先で分かる3つのこと
・157キロを導いたフォーム修正と動作解析の具体的な中身
・斉藤和巳監督が春季キャンプで選手に説いた「継続」の真意
・首脳陣から右腕に明かされた「先発チャンス」の舞台裏
「大きく言えば、ずっとフォームについて色々とやってきたことが噛み合ってきた。1軍から落ちてきた時くらいには、『これ』というものが見つかっていなかったんです。だけど、今はそれが見えてきた感じです」
大山はその核心を切り出した。変化を加えてきたのはメカニズムの部分が大きい。「しっかり立つというところも入っています。一番わかりやすいのだと、腕がテークバックする時に、ショートアームまでいかないですけど、帰ってくる場所に収まって入ってくる。入り方が違うんです、腕のところが」。
自分が課題だと感じていた部分と、コーチ陣が指摘する部分を何度も微調整してきた。立ち方や腕の使い方は、ほんの一例に過ぎず、挙げるとキリがないほどに自身の体やフォームと向き合ってきた。気になる動きがあれば、自ら動作解析を依頼するなど、徹底的に理想とするフォームを追い求めてきた。その結果、大山自身が元から持っているパワーやポテンシャルを無駄なく発揮できる割合が飛躍的に高まり、157キロという数字につながった。
実感した続けることの大切さ
大山が表情を明るくさせていたのは、技術的な進化があったからだけではない。
「球速が157キロまで上がるとはさすがに思っていなかったです。なんなら、『もう球速はこれ以上伸びないかも』と思った時もあったので。改めてですけど、いろんな人に言われ続けてきたからこそ、というのもあると思うんです。『やり続けるのが大事だぞ』と言われていたことが実感できたのはありますね」
結果が出なければアプローチを変えたくなる。そんな“誘惑”に駆られるのは、誰しもが通る道だ。それでも諦めることなく、根気強く課題と向き合い続けたことで、継続が実を結ぶことを右腕は実感。その過程の大切さを身をもって知ったことに、背番号53は笑みを見せる。実は大山が実践してきた“継続”については、2軍を指揮する斉藤和巳監督が今年2月のキャンプインから選手に説いていたことでもあったという。右腕の姿について、指揮官はこう語った。
「宮崎に入った時に、3つの話をした中の1つに『継続』という言葉を使っている。継続がどれだけ大切かと感じてもらえたことは、こちらとしてもすごく嬉しいこと。続けてみないと分からないし、続けたからといって成功するわけでもない。だけど、継続したからこそ正解か不正解かが分かる。そういうことに気づくまでが一番しんどいんだけど、気づけたら色んなことがまとまってきたりするので」
選手が迷い、ブレそうになる中でも、地道にアプローチを続けた指揮官。その“親心”が伝わった瞬間でもある。少しだけ目尻を下げて話す斉藤監督の表情が、大山が精神的な面でも成長したことを表しているようだった。
今後も先発としての調整を託されている大山。小久保裕紀監督も「今の1軍の課題は先発」と語っている中で、2軍首脳陣が右腕へかける期待も大きくなる。「先発が決まった時にも『今のチーム状況的にも先発のチャンスは大きい』という話をしてもらいました」。そう語る背番号53には、筑後の猛暑を吹き飛ばすほどの強い決意が宿る。新たな自分を知った今、大山凌が後半戦のマウンドで勝負をかける。
(飯田航平 / Kohei Iida)