上茶谷大河「勘違いするなよ、俺」 初先発の32日前、悔しさで絶叫…弱気な己が「情けない」

  • 記者:竹村岳
    2026.07.17
  • 1軍
移籍後初先発で5勝目を挙げた上茶谷大河【写真:井上学】
移籍後初先発で5勝目を挙げた上茶谷大河【写真:井上学】

2024年オフに現役ドラフトで移籍…初先発で白星

 まだ荒らされていないマウンドが懐かしい。感謝の気持ちを忘れず、全力で腕を振った100球だった。6-2で勝利した16日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。先発した上茶谷大河投手が6回2失点で5勝目を挙げた。お立ち台で見せたひょうきんな笑顔の裏側――。わずか1か月前に抱いた「自分を信じられない」という本音には、生々しいまでの葛藤が隠されていた。

「追いついてもらった次の回に勝ち越されて『ダメだな』と思っていたんですけど、野手の皆さんが凄まじい攻撃力を見せてくれたおかげです。改めて(ホークス打線は)すごいなと。敵じゃなくてよかったなと思いました」

 初回は3者凡退の立ち上がり。4回は郡司に適時打、5回には奈良間にソロを被弾したが、最後まで安定感が光る投球内容だった。打線が7回に4点を奪い、勝利投手の権利をゲット。最速153キロを計測した直球を軸に9三振を奪う力投で、バックの守りにも助けられながら自らの役割を全うした。小気味のいいテンポも、自軍に好影響を与えたはずだ。

 先発での勝利はDeNA時代の2022年9月9日以来、実に1406日ぶりだった。この試合までの今季26登板はすべてリリーフで4勝0敗10ホールド、防御率2.12。好成績を残して、ホークス2年目にして初先発のチャンスを手にした。ここに至るまで、腹の底から叫びたいほどの悔しさも味わった。ベンチ裏で絶叫した1か月前。何よりもショックだったのは、自分が自分を信じられなかったことだ。

「あー、もう!」――

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この先で分かる3つのこと

ベンチ裏で叫んだ「あー、もう!」直面した己の弱さ
謙虚な29歳が自らに言い聞かせる「勘違いすんなよ」
レイエスを打ち取り小さくガッツポーズした理由は

6月14日のヤクルト戦で被弾「自分にガッカリしました」

 右腕の記憶に深く刻まれているのは、6月14日のヤクルト戦(みずほPayPayドーム)。2点ビハインドの5回にマウンドへ上がると、2死からサンタナにソロアーチを浴びた。逆転ムードを作り出すことができず、3点差に広がった。続く打者を見逃し三振に斬った瞬間、上茶谷は不甲斐なさを爆発させるように雄叫びを上げていた。開幕から1軍の最前線で戦ってきた中でも、この一球が忘れられない。

「投げきれない自分に腹が立ちました。投げる前から弱気が出てきていたので。インコースの要求だったんですけど、僕が僕自身を信じられなかった。あの時は自分にガッカリしましたね。情けない。『なんで投げられへんの』って。意図した通りに投げて打たれるのと、弱気で甘くなって打たれるのとでは、まるで違うので。ベンチ裏で叫びましたね」

 6月は防御率3.72。疲れも溜まってくるシーズン中盤、流れを手繰り寄せるような投球ができずにいた。「弱気になっていること自体、おかしいので。ベイスターズの時は何回か裏で叫んだことがあるんですけど、久しぶりでした。『あー、もう!』って」。マウンドでの態度は野手もファンも必ず見ている。どんな時も弱気な姿は見せないように心がけてきたが、このソロアーチには感情を隠すことができなかった。

 ヤクルト戦の後、帰路に就いた右腕には笑顔も見られた。「引きずりはしないですよ。叫んで終わりです。『すっきりした!』って」。ホークスに移籍して2年目、フル回転している今シーズン。酸いも甘いも経験している中で、絶対にブレない信念がある。どんな時も優先するのは、チームの勝利だ。

「(6月20日に)エスコンでレイエスにも打たれましたけど、あれは結果的にチームが勝ったので。こんなことを言うとあれなんですけど、チームが勝てば吹っ切れるんです。みんながゼロに抑えてくれるおかげで僕も救われますから。だからこそ、あのサンタナの一発は絶対にダメでした。反撃ムードを消す。負け投手みたいなものです。ビハインドの失点は、それくらいダメなので。最悪でしたね」

6月14日のヤクルト戦で被弾しマウンドでうなだれる上茶谷大河【写真:栗木一考】
6月14日のヤクルト戦で被弾しマウンドでうなだれる上茶谷大河【写真:栗木一考】

感情を見せた瞬間…重要な場面「先頭だったので」

 痛恨の被弾から32日が過ぎ、初先発で見事に結果を残した。マウンド上で感情を見せたのは、同点の6回無死。レイエスをカットボールで空振り三振に斬ると、小さく拳を握った。「ホッとしましたね、先頭だったので」。奈良間に浴びたソロアーチは反省点だが、最後まで試合の流れを意識して、集中力を切らすことはなかった。ピンチを広げなかったことが大きな勝因。だからこそ、感謝の言葉ばかりが口をついた。

「(先発での勝利は)1406日ぶりですか? すごい日数ですね。大学(の4年間)1回いけるやん。なかなかない先発でこうして勝てたのは、本当に野手の方々のおかげ。皆さんが打ってくださったので、感謝したいです」

 先発ローテーション入りを目指して始まった2026年。ついに1枠を勝ち取り、白星まで挙げてみせた。「打たれるたびに、『勘違いするなよ、俺』って言い聞かせています」。明るいキャラクターの印象が強いが、それ以上に謙虚な右腕は足元を見つめている。プロ8年目の29歳。上茶谷大河は、まだまだ強くなれる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)