分岐点となったのは3勝目を挙げた6月6日のDeNA戦
若き左腕の躍進を支えているのは、米国で習得した“新しい武器”だ。「あんまり自信はなかったんですけどね」。苦笑いしつつも、確かな手応えを感じているのは間違いない。前田悠伍投手が語ったのは、自らの投球の根底に生じている“変化”についてだった。
今季初登板を果たしたのは5月3日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。以降は8試合に登板して6勝0敗、防御率1.84の成績でローテーションを支えている。「いい状態が続いているので、これをキープして。レベルアップできるように頑張っていきたいと思います」。ドラフト1位で入団して3年目、その才能を1軍の舞台で思う存分に発揮している。
5月の4登板は防御率3.50だったのに対し、6月以降は0.69と明確に成績を良化させている20歳。分岐点となったのは6月6日のDeNA戦(横浜)だった。初回に3四球を与えるなど39球を要し、小久保裕紀監督も「どうなるかと思った」と語っていたが、結果的に5回1失点で3勝目を手にした。テンポアップを意識した2イニング目以降、左腕の“覚醒”が始まった。
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この先で分かる3つのこと
防御率0.69への急変貌…分岐点となった「6月6日」
渡米自主トレで手応えを得ていた「新スライダー」
海野隆司が太鼓判を押す理由…純粋な“疑問”も
年末年始に渡米…握りを見つめ直したスライダー
「もともとスライダーの曲がり自体はいいんですけど、コントロールができなくて、あまり自信がなかったんです。2日前(6月4日)のピッチングでも、当日の試合前のブルペンでも良かったので。『これはもしかしたら使えるかも』と思っていました。テンポを良くしたことで『(ゾーンに)入るかな』という不安も生まれないように、早く握って足も上げてしまう。そうすることで『あとはもう投げるしかない』となっていたので、それが逆に良かったのかなと思います」
過去の2年間、積極的に使っていたのはカーブ、フォーク、チェンジアップの3球種。体が横振りになってしまうことも含め、スライダーに「自信がなかった」ことも素直に認める。「横浜での登板に関してはブレも少なくて、真っすぐよりも腕を振れました。スライダー以外も含めて、収穫がたくさんあったので。1つ、ポイントになる試合だったと思います」。左腕は飛躍のきっかけをつかんだ瞬間を振り返る。
昨年12月から2か月間、千賀滉大投手と自主トレをともにした。年末年始には米国に渡ってトレーニングを積み、そこでスライダーの握りを見つめ直したという。「その時も、曲がりはすごく良かったんですよ。でも、いざ試合になると無理でした。アメリカの施設の方と『もっとこうした方がいいんじゃないか』という話はたくさんしたんですけど、握りは教えてもらったままですね」。人差し指を立てて、パワーカーブのような軌道を描く。130キロ前後の球速帯は、ピッチングの幅を大幅に広げてみせた。
今季の被弾は4本。そのうちの2本は、チェンジアップを捉えられたものだった。高校時代は最も信頼を置いていたウイニングショットだが、今季は全体で10%以下の割合にとどまっている。自分の立ち位置を確立するために必死で、本格的にスライダーを使い始める前だった5月。左腕は「いい落ち方をすればチェンジアップが使えるんでしょうけど、今のままじゃ使えないなと思っています」と本音を漏らしていた。
「球速が上がって、投げ方が変わったのもあるんですけど。真っすぐの感じでチェンジアップを投げようとしたら、その分スピードも出てしまって(緩急が)なかなかつかない。消したくない思いはあるんですけど、もう使えないなら消すのも仕方ないのかなと。武器になるような新しい球を探して、もう1回チェンジアップで空振りを取れるような練習をしていけばいいだけだと思っていますね」
海野隆司も太鼓判「なんでもっと早く使わないんだ」
試合前のウオーミングアップ中、左腕は体を温めながらボールを握り、チェンジアップの試行錯誤を繰り返していた。大津亮介投手にアドバイスも求めた。「『中指の感じを変えてみたらもうちょっと遅くなるんじゃない?』と言われて、試してみたんですけど制球が難しかったですね」。中学時代から、人生をともにしてきたウイニングショット。“相棒”をどう活かすべきか――。「練習すればいいだけ」という言葉が前田悠らしかった。
直近の登板は7月1日の西武戦(みずほPayPayドーム)。チェンジアップで空振り三振も奪うなど、7回無失点で6勝目を挙げた。バッテリーを組んだ海野隆司捕手も、スライダーについて「『なんでもっと早く使わないんだろう』と思っていました。信頼してサインを出せるボールです」と太鼓判を押す。無傷の6連勝という堂々たる成績。マウンド上で見せる表情からは、強い「自信」が伝わってくる。
「左バッターに対してのスライダーが右バッターにも投げられるようになりましたし、左に対してちょっと手詰まりになっていた部分があったんですけど、1球種増えたことで幅は広がったなと思いますね。それもあってチェンジアップも良くなりましたし、フォークとの区別化もできているので。いい方向にいきつつあると思います」
シーズン2桁勝利、そして新人王も視野に入るようになってきた。「まずは一戦一戦、気持ちを高めてやっていけたら」と足元を見つめる左腕。どんな時も諦めず、泥臭く練習してきたからこそ、今の前田悠伍がある。
(竹村岳 / Gaku Takemura)